十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
(不覚だった……)

 深すぎる眠りから目を覚ました時には、もう日が傾きかけていた。
 いつもなら朝のうちに掃除をして、図書室の整備をしながら読書に没頭して……買い出しなんかにも行けたかもしれないのに。

 ベッドの寝心地が良過ぎて、まったく目を覚ますことが出来なかった。安眠を誘うグリーンの香り。パリッとしたシーツの肌ざわり。
 寝不足の身体は正直だった。完全な敗北だ。このベッドの主への。

 フィーナは上体を起こして、これからどうしようかと頭を抱えた。どう弁解しても、フィーナがカミロのベッドで寝た事実は覆らない。

「起きたか」
 
 そんな時。トレイを手にしたカミロが、部屋へとやって来た。タイミングが良すぎる気もするが、もしかしてフィーナの起きる気配を見計らってのことだろうか。

 何はともあれ、謝らなければ。フィーナはカミロに向かって頭を下げた。

「……カミロ様申し訳ありません、寝てしまいました」
「なぜ謝る」
「居候がカミロ様の部屋で寝るなど、外聞が……」
「お前は見合い相手だろう。俺の部屋で寝ていてもおかしく無い」
「そんなことってあります……?」

 カミロが持ってきたトレイの上には、湯気の立つスープとやわらかいパン。おそらく、昼食もとらず眠りこけていたフィーナのためのものだろう。

「母が心配していた。もちろん、チェリも私も」
「ご心配をお掛けしてすみません……その、寝不足をカミロ様のせいにしたことも申し訳なく……」
「寝不足は、俺のせいだろう。謝る必要は無い」
「えっと、でも」
「俺のことを考えていて、眠れなかったんだろう。さあ、食べろ」

 カミロはあっさりと、フィーナの恥ずかしい部分をえぐってくる。
 その通りなのだが、本人からそのようにはっきり言われてしまうと、こちらとしてはいたたまれない。まるで一晩中、カミロのことばかり考えていたと公言してしまったかのようで。

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