十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。

恋人達の花畑

 街から馬車に揺られ、一時間ほど。
 セラピア湖の湖畔に広がる花畑は、まさに見頃を迎えていた。
 見渡す限り花畑が広がり、まるで花のじゅうたんのよう。ひらひらと舞う蝶々、湖面のきらめき、甘い花の香り。全てがロマンチックな雰囲気を演出していた。

 (予想はしていたけれど……みごとに恋人だらけだわ)

 デートスポットとして有名なだけあって、右を見ても左を見ても男女の二人組ばかりだ。初々しい恋人達から、どこかワケありのような男女まで、皆がこの甘い空間に溶け込んでいる。

 うちだけだ。溶け込んでいないのは。



「花だらけだな」
「当たり前です。花畑なんですから」

 こんなにも素晴らしい花畑を前に、カミロの感想は味気のないものだった。彼は花畑の中で腕を組み、この場所を値踏みでもするような目で見下ろしている。そんな姿もやはり美しくて、すれ違う者達の視線をことごとく奪っていった。

 フィーナは、カミロの一歩後ろをついて歩いた。とてもじゃないが、花よりも目立っている人の隣を歩けない。周りからはどう見られているだろう。主と従者か、それとも上司と部下か……

「きれいですね」
「ああ」
「香りも良くて……」
「ああ」

 会話も、見事に膨らまない。カミロが花に興味を持たないのは仕方がないが、それにしても花畑に来ているのだからもっと話を合わせてくれたっていいのに。
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