十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
「このピンクの花は、ピスティという」

 隣からカミロを見上げていると、彼がいきなり喋りだした。

「? お花、ご存知なのですか?」
「ピスティの根は、薬の原料になる」
「へえ、そうなんですか」
「花は食べることが出来るそうだ」
「えっ、すごい! 知らなかったです」

 フィーナの反応に気をよくしたのか、彼のうんちくは止まらない。

「黄色の花は、アネシスという」
「へえ……可愛い花ですよね」
「残念だが、アネシスは食べられない」
「えっと、はい……」
「紫の花はエスペリニと言って、これも食べられない」
 …………

 カミロはフィーナの手を引きながら、延々と花について話し歩く。急に話し出した彼を不思議に思っていたが、彼の横顔を見続けているうちに何となくわかった。
 このうんちくは、照れ隠しなのだと。

 (カミロ様も、手を繋いで照れたりするんだな……)

 普段何事にも動じず平然としているカミロの耳が、ほんのりと赤い。
 彼の、意外な一面を見た気がした。そういうフィーナだって、男性と手を繋いで歩くことなんて初めてのことで。

 カミロのよく分からないうんちく話は、互いの動揺を上手い具合に誤魔化した。
 花畑の長い道のりを、二人は手を繋いでゆっくり歩いた。カミロから、延々と花の名前を聞きながら。
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