十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
 フィーナは十八歳。
 元・アフェリス子爵家の一人娘である。

『元』がつくのは、彼女がいまや子爵令嬢では無いためであった。
 まだフィーナが幼い頃、両親は不慮の事故により他界。継ぐ者もいないアフェリス子爵家は爵位を返上され、フィーナは六歳にして天涯孤独の身となった。

 そんな彼女がトルメンタ伯爵家に身を置いていられるのは、両親の親友であったトルメンタ伯爵夫妻のおかげである。
 当時六歳であったフィーナを不憫に思ったトルメンタ伯爵夫妻は、彼女を快く引き取った。それからというもの、フィーナはトルメンタ伯爵家で何不自由ない生活を与えられ、心ばかりメイドの真似事をしながら暮らしている──



 張り切ってお洒落をしたけれど……こんな格好、さっさと着替えてしまおう。頑張って巻いた髪もひとつにまとめ、着慣れた水色のワンピースを頭から被る。最後に真っ白なエプロンを身につけて。
 普段どおりの装いに着替えたフィーナは、さきほどの出来事を振り払うかのように自室を飛び出したのだった。

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