十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。

寝不足がもう一人

 フィーナは翌日、庭の花へ水をやっていた。
 セラピア湖の花畑のようにはいかないが、トルメンタ伯爵邸の庭園も今が花ざかりを迎えている。厳選された色とりどりの花々が、良く手入れされた庭を彩っていた。

 花を見ると思い出してしまう。昨日、カミロと花畑へ行ったことを。
 花畑で佇むカミロに、美しい手を差し出された。その手を取り、お互いに照れを隠しながらゆっくりと歩いた。すべてが鮮明に脳裏に浮かぶ。

 (まるで、デートみたいだったな)

 昨日の夜、謎だらけのカミロについて悶々と考えながら、フィーナはあるひとつの可能性を見出した。
『もしかしてカミロは、見合いの練習に付き合ってくれているのでは?』と。

 そう考えると合点がいくのだ。
 カミロはあのような男だが、縁談を断られ続けるフィーナのことを少なからず気にかけてくれていた。
 ああ見えて、きっと情に厚い男なのだ。見合い相手と行くはずだった花畑も、スキンシップをはかろうとしたことも、『次』で失敗しないよう練習台になってくれているのではないだろうか。
 おかげで、ただ花畑へ行くだけでは仲が深まることは無いと気が付いたし、スキンシップは想像以上に効果があると分かった。カミロを動揺させるほどに。

 もしもこの仮説が正しければ、次へ生かすためにも頑張らなければならない。せっかくあのカミロが『本気』で協力してくれているのだから。
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