十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
「あっ、カミロ様。寝る前に、ハーブティーをお持ちしましょうか」
「……ハーブティー?」
「安眠を誘う、リラックス効果のあるお茶です。寝る前にお飲みになれば、ゆっくり眠れるのでは?」
「お前が、俺の部屋に持ってくるのか。寝る前に」
「はい」

 フィーナは名案だと思ったのだが、カミロは依然として複雑そうな表情を浮かべている。そんなにも大それたことでは無いと思っていたのだが、寝る前に部屋へ来られるというのは中々邪魔なのかもしれない。

「あ……ご迷惑であれば、そんなことは致しませんが」
「迷惑などでは無い!」

 カミロは強く否定した。

「むしろありがたい……ありがたいが……寝る前にそんなことされたら、さらにお前のことを考えてしまうかもしれない」
「そうですか。ではやめておきます」
「いや、持ってきてくれ」
「でも」
「持ってきてくれ」
「は、はい」

 フィーナに強めの念を押すと、カミロは立ったままコーヒーを一気に飲み干した。

「旨かった。また頼む」

 唖然とするフィーナにカップを返し、彼は普段通りのすました顔で玄関へと向かう。

 (……あのコーヒー、まだ熱かったはずだけれど)

 遠ざかるカミロの背中を見送りながら、フィーナはもうひとつ気が付いた。

 (そういえばカミロ様、朝食もまだだったんじゃあ……)

 これは絶対におかしい。相当、寝不足が響いているようだ。なかなか深刻な事態なのでは……
 今晩こそカミロがぐっすりと眠れるよう、フィーナはとっておきのハーブティーを用意しようと心に決めたのだった。
 
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