十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
 なぜ、ここでカミロの名が出てくるのだろう。
 
「なぜ? カミロ様が、どうかしたの?」
「どう、というか……君と見合いをした時、カミロ様がうちの商店に来たんだ。君との結婚について、『そのくらいの覚悟なら、この縁談は止めてしまえ』って」


 フィーナは耳を疑った。
 雷に打たれたような衝撃が全身を襲う。

「……そ、そんな」
「あのカミロ様にそんなことを言われたらね……君と結婚しようという勇気は出なかったよ」

 初耳だった。本当にカミロがそのような事をしていたのなら……まるで妨害じゃないか。

 フィーナはこれまで、九人の男に縁談を断られてきた。縁談のたびに張り切って、でも断られて。なぜなのか、自分の何が駄目だったのか、断られるたびに悩んでいたのに。

「それは、本当なの……?」
「本当だよ。でも今思えばカミロ様のことなんて気にせず、君と婚約すれば良かったよ。僕はあのあと別の子と婚約したんだけど、その子がワガママでさ。君のほうがずっといい子だもの。ずっとフィーナさんのことを気になっていたから、今日会えたのは運命だと思うんだ」

 目の前の彼は、こちらがどんな顔で聞いているかも気にせずぺらぺらと話す。彼の婚約者にもフィーナにも、なんて失礼なことを言うのだろう。彼との縁談は、破談になって正解だったのかもしれない。断られてめそめそしていた自分が馬鹿みたいだ。
 その後も彼からは何か話しかけられた気がしたが、フィーナの耳には何も入ってこなかった。

 それよりも、カミロだ。
 カミロは、気にかけてくれていると思っていた。見合いを成功させたいフィーナに、協力してくれていると。なのにどうしてそんな真逆のことを。

 一度目だけだろうか? それとも二度目も三度目の相手にも……まさか、すべての相手に?
 カミロの狙いが分からない。フィーナは赤髪の彼などすっかり忘れ去ったまま、カミロへのハーブティーと大きな疑心を抱えて帰路に着いたのだった。
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