十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
 「あ、あの!」
「……フィーナさん? どうしたのこんな所で」

 九人目の彼はフィーナに気づくと、こちらまで足早に駆け寄った。
 軽く挨拶を交わすと、二人の間にはわずかに気まずい沈黙が訪れる。それもそうだ、断られたのはつい最近の話なのだから。

「こんなところで待ち伏せしてごめんなさい……あなたに、少し話があって」
「話? じゃあ、なにか食べながらでもいいかな。僕、昼食がまだで」

 ちょうどフィーナも昼食はまだだった。彼は騎士団近くの定食屋へとフィーナを案内し、慣れたように日替りのランチを注文する。窓も大きく小綺麗な店内には騎士達に混ざって女性の姿もチラホラ居て、彼がフィーナに気遣ってこの店を選んでくれたことがよく分かった。

「美味しそうですね」
「でしょ。見た目よりボリュームもあるんだよ」

 彼は、日替りランチを飲み込むように口に運ぶ。その勢いに驚きながらも、フィーナは話を切り出した。

「話ですが、じつは縁談のことで」
「ああ……あの時は本当に申し訳なかったと思ってるよ。せっかく話を頂いたのに」
「いえ、謝って欲しい訳では無いのです。断られたのは仕方ないと思っています。それよりも……断られた理由が知りたくて」
「理由?」
 
 彼は口いっぱいに肉をほおばったまま、きょとんとしてしまった。理由など、もう君に伝えてあるだろう? と彼の顔がそう物語っている。

「あなたは縁談に対して『自信が無い』からと仰いました……もしかして、誰かに何か忠告されたりしましたか」
「……あー。うーん、君に言っていいのかな」

 やはり彼も、『何か』が言われていた。続きを聞かずとも、彼の身に何が起こったのかはもう分かってしまった。

「カミロ様が、騎士団にやってきたんだ。言われたんだよ、『フィーナを絶対に幸せにする自信はあるか』って」

 
< 38 / 65 >

この作品をシェア

pagetop