十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
 彼女の泣き顔を見たのは、あれが最初で最後だった。フィーナは、誰にも泣き顔を見せなかった。

『他人』なのだ。カミロ達トルメンタ伯爵家は。どんなに彼女を助けたとしても、こちらがどんなに家族として接しても、フィーナがトルメンタ伯爵家に心を開くことは無い。

 線引きをするように、彼女はトルメンタ伯爵家でメイドまがいのことまで始めた。掃除をしたり、お茶を出したり。しなくていいと言っても、「そんなわけにはまいりません」と拒否をするのだ。

 そして十六歳になると、フィーナはさっそく見合いを望んだ。彼女はこの屋敷を出て、自分の家族を持つつもりだと言う。

「カミロ、あなた、いいの?」
「なにがです」

 母からは、顔を合わせる度に何度も何度も念を押されたが、なぜそのように心配されるのか分からなかった。
 やっとフィーナにも『家族』ができる。孤独では無くなる。喜ばしいことじゃないか。彼女はきっと幸せになるだろう──



 ……本当に?
 心の奥が、小波を立てた。
 
 幸せに、なるだろうか。
 フィーナの縁談相手は、どんなやつなのだろうか。母の用意する男なのだからそれほど酷い奴ではないだろうが、彼女にとってその男が相応しい保証は無いのではないか。

 フィーナは幸せにならなければならない。確実に。
 もう決して、あのように泣かせてはならないから。
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