十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
(そうか……)
なんだ、こんなに単純な事だった。自分がフィーナの縁談相手になれば良かった。そうすれば彼女を不甲斐ない男に奪われることも無い。唯一の『家族』として、この手で幸せにすることができる。
フィーナが『見合い相手』として自分を好きになれさえすれば。きっと彼女は心を開いてくれることだろう。
カミロは、その日のうちにディレットへフィーナとの縁談を相談した。母ディレットからは何故か「遅過ぎるわよ」と叱られたのだった。
カミロが十人目の縁談相手として現れたことで、フィーナは見るからに困惑していた。しかしそれは想定内でもあり、カミロにとってさほど問題ではない。問題があったとしたら、それは自身の変化に対してだ。
(……? なんだ? 胸が)
カミロは、初めて屋敷の外でフィーナと対面した。改めて『見合い相手』となるフィーナを前に、突然激しくなる動悸。
(胸が、苦しい)
普段より着飾っていたからだろうか。サラサラと流れる髪に、光に透ける瞳。見慣れた彼女が、身を固くしてこちらを窺っている。いつまでも幼い気がしていたのに、その日はカミロの価値観を覆すほど魅力的に見えた。
とたんに、カミロの心は浮ついた。
見合い相手となったフィーナの存在に、自身の使命感が湧いてゆく。幼い頃からの積年のそれは、カミロ自身の手には負えないくらいで。彼女との距離が一気に縮まった気がして、落ち着かない気持ちは止められなかった。
ようやく本心に気付いたカミロは、寝ても醒めてもフィーナのことばかりを考えてしまう。
彼女がこの先もトルメンタ伯爵家にいてくれる、そんな甘い幸せを思い描く。この先もずっとここにいればいいのに。自分だけのものでいてくれたらいいのに。
彼女は本気で結婚したいと言っていたが、自分との縁談にも本気になるだろうか。本気で結婚したいと……思ってくれるだろうか。
やっと自覚した。
手を繋いだあの時から……いや、見合いをした日から。……違う、もっと以前から。
もしかすると、トルメンタ伯爵家へ彼女がやってきたその日から。
カミロの心は、フィーナに支配されていた。
なんだ、こんなに単純な事だった。自分がフィーナの縁談相手になれば良かった。そうすれば彼女を不甲斐ない男に奪われることも無い。唯一の『家族』として、この手で幸せにすることができる。
フィーナが『見合い相手』として自分を好きになれさえすれば。きっと彼女は心を開いてくれることだろう。
カミロは、その日のうちにディレットへフィーナとの縁談を相談した。母ディレットからは何故か「遅過ぎるわよ」と叱られたのだった。
カミロが十人目の縁談相手として現れたことで、フィーナは見るからに困惑していた。しかしそれは想定内でもあり、カミロにとってさほど問題ではない。問題があったとしたら、それは自身の変化に対してだ。
(……? なんだ? 胸が)
カミロは、初めて屋敷の外でフィーナと対面した。改めて『見合い相手』となるフィーナを前に、突然激しくなる動悸。
(胸が、苦しい)
普段より着飾っていたからだろうか。サラサラと流れる髪に、光に透ける瞳。見慣れた彼女が、身を固くしてこちらを窺っている。いつまでも幼い気がしていたのに、その日はカミロの価値観を覆すほど魅力的に見えた。
とたんに、カミロの心は浮ついた。
見合い相手となったフィーナの存在に、自身の使命感が湧いてゆく。幼い頃からの積年のそれは、カミロ自身の手には負えないくらいで。彼女との距離が一気に縮まった気がして、落ち着かない気持ちは止められなかった。
ようやく本心に気付いたカミロは、寝ても醒めてもフィーナのことばかりを考えてしまう。
彼女がこの先もトルメンタ伯爵家にいてくれる、そんな甘い幸せを思い描く。この先もずっとここにいればいいのに。自分だけのものでいてくれたらいいのに。
彼女は本気で結婚したいと言っていたが、自分との縁談にも本気になるだろうか。本気で結婚したいと……思ってくれるだろうか。
やっと自覚した。
手を繋いだあの時から……いや、見合いをした日から。……違う、もっと以前から。
もしかすると、トルメンタ伯爵家へ彼女がやってきたその日から。
カミロの心は、フィーナに支配されていた。