十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
「カミロ様は……このところ、大丈夫なのでしょうか」
「フィーナ、お兄様のこと心配してるのぉ?」
「優しいわね、フィーナちゃんは」

 だって、カミロはほとんど屋敷に戻ることの無い生活を送っているのだ。ちゃんと身体は休めているのだろうか。眠れているのだろうか……フィーナのことばかり考えてしまうと顔を覆っていた、あの彼が。

「少しは苦しめばいいのよ。フィーナちゃんを傷つけたのだから」
「ですが」
「フィーナちゃん。さあ、話を進めましょ。どの人にする? 私はこの翻訳家の方がオススメよ。ほかにも学校の先生もいるし、音楽一家の方も……」

 テラスのテーブルの上には、ディレットが用意した釣書がずらりと並べられていた。すべて、フィーナの『十一度目』の縁談に向けての物だ。

「わあ、この翻訳家の人いいんじゃなぁい?」
「ね。とっても素敵。フィーナちゃんにぴったりよ」

 ディレットとチェリは釣書を見ながら盛り上がっているが、フィーナにはそんな気持ちになれなくて。広がる釣書をただぼんやりと眺めていた。

 自分が自分じゃないみたいだった。まったく心が動かないのだ。以前は見合いが終わるたび、次の縁談に飛びついていたはずだった。
 なのにどうしてしまったのだろう。ずっと、本気で結婚をしたいと思っていたじゃないか。自分だけの家族が欲しいと、そう望んでいたはずなのに。

 釣書を見ることが出来ないでいたフィーナの元に、メイドがそろそろと歩み寄った。

「フィーナ様。お客様がいらっしゃっておりますが、如何致しますか?」
「私に? どなたでしょう?」

 思いがけず、来客の知らせが入った。フィーナを訪ねてトルメンタ伯爵家に来る者など稀だった。一体誰が来たというのだろう。

「それが……アトミス騎士団の騎士様のようなのです」
「えっ……?」

 アトミス騎士団の騎士。
 思い当たる人物は一人。
 それは九人目、先日会った彼だった。
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