十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
 屋敷の一室。フィーナの部屋は、チェリの部屋の隣にあった。広さも調度品もそれほど差のないその部屋からは、トルメンタ伯爵家の愛情を感じさせる。

 自室のクローゼットの片隅には、昔から大きな木箱が鎮座していた。フィーナはその蓋を開け、目的のものを探し出す。

 箱の中は、フィーナの宝物──両親の形見が入っていた。花モチーフのブローチ、クマのぬいぐるみ、父の帽子、母の指輪……そして、綺麗にたたまれたブルーのハンカチ。

 (あった……)

 このハンカチはカミロのものだった。フィーナは箱からそのハンカチを取り出すと、当時を懐かしむようにそっと撫でる。
 これは優しさのかたまり。フィーナの大切な宝物のひとつだった。



 まだフィーナがトルメンタ伯爵家に世話になり始めて日も浅い頃。
 彼女は毎晩、部屋で泣いた。亡き両親を思って、自分の孤独を嘆いて。
 六歳のフィーナは、隠れて泣くことしか出来なかった。自分を受け入れてくれた優しいトルメンタ伯爵家の皆に、要らぬ心配をかけたくはなかったのだ。

 しかしある日、誰にも見せたくなかった泣き顔を、よりにもよってカミロに見られてしまった。
 二歳年上のカミロは冷たい印象の少年で。いつ話しかけても素っ気なく、どう関わって良いのかも分からない、そんな少年だった。フィーナも子供心に薄々気付いていた、彼からは嫌われているのだろうということが。

 なのにカミロは、何故か勢いよくフィーナの部屋へと入ってきて。そしてびくびくと固まっているフィーナの前に、自身のハンカチを差し出した。表情も変えず、ただ涙を溜めるフィーナを見下ろして。
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