十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
 カミロは心の支えを失った。
 長年、心の支えになっていたもの。それはフィーナを幸せにすることだった。
 その気持ちが恋であったことに気づいた時にはもう既に遅くて。取り返しのつかないことをしていたのだと分かったのは、フィーナの涙を見てからだ。

 彼女は失った『家族』を得ようと何度も縁談を繰り返してきたのに。カミロはその度に、彼女の想いをぶち壊してきた。己の正義感だけを振りかざして。

 どの見合い相手にも納得できなかった。
 きっと無意識だった。心の底では羨ましかったのだ、フィーナの唯一になれる男が。彼女にとっての唯一が、生半可な覚悟では許せなかった。自分以上の覚悟でなければ許せなかった。
 自分こそがフィーナに相応しいと、自分ならフィーナを幸せに出来ると思いこんでいたのかもしれない。彼女の気持ちなど、まるきり無視したままで。

 本当に間抜けだ。なぜそんなにも自信満々でいられたのだろう。フィーナと手を繋いだだけで、頭が真っ白になってしまうような情けない男なのに。
 挙句、泣かせてしまった。拒まれてしまった。こんなどうしようも無い自分が、どうしてフィーナを幸せに出来るだろう。

 しかしカミロは、フィーナのことばかりを考える自分に気付いてしまった。
 彼女が世界一大切で、何より愛しい。心の奥まで、見せて欲しい。甘えて欲しい。幸せにしたい。彼女の孤独を埋めたい。彼女の、本当の家族として──



「カミロ様」

 瞼を閉じていると、幻聴が聞こえる。
 フィーナの声だ。幸せな夢でも見ているのかもしれない。

「カミロ様、少しお話を」

 彼女はハーブティーを持ってきてくれた時にも、話をしようと言ってくれた。優しいひとときだった。もうあの時間は、二度と手に入らない。

「カミロ様……? 大丈夫ですか」

 愛しいフィーナの声は、何度も語りかけてくる。
 ずいぶんとリアルな夢だと、姿を見てみたいと……薄く目を開けると。

 そこには本当にフィーナが立っていた。

< 54 / 65 >

この作品をシェア

pagetop