十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
「ーーーー!?」

 思わずベッドから飛び起きる。
 そんなカミロにフィーナも驚いたようで、彼女はベッドのそばで大きな尻もちをついた。

「い、痛……」
「大丈夫か!」

 転けたフィーナに手を差し伸べると、彼女が戸惑いの表情を浮かべた。迷っているのだ、この手を取ってよいものかどうか。それもそうだ、カミロは縁談を台無しにしてきた、忌々しい相手なのだから。

「す、すまない、驚いて……しかしなぜフィーナがここに」

 つい差し出してしまった手を引こうとすると、フィーナにガシリと手を掴まれた。
 呼吸が止まる。彼女の小さな手が、カミロの手に縋る。まるで、逃がさないとでも言うように。

「あ……こちらこそすみません、お部屋へ勝手に入って待っていました。ディレット様には、許可を頂きましたが」
「母上が許可をしたのか」
「はい」

 心臓が止まるかと思った。まさかこんな薄暗い自室にフィーナがいたなんて、思うはずが無いじゃないか。こんな遅い時間まで、ずっと、カミロを待って。

「……俺を待っていたのか」
「はい。最近はお屋敷にいらっしゃらないので」
「こんな遅い時間まで」

 フィーナはカミロの手を掴んだまま、ベッドの脇に跪いている。掴まれた手に意識は集中してしまって……シンとした沈黙の中、カミロは彼女の言葉を待った。

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