十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
「どうしても、お話がしたくて」

 蜂蜜色の瞳は薄闇の中で強く輝き、こちらを見つめる。

 (……なぜ、俺なんかと?)

 話がしたかったというその一言だけで、カミロの胸はじわじわと満たされてゆく。話してもいいのだろうか、彼女と向き合うことが許されるのだろうか……そう思うといても立ってもいられなくて。

「フィーナ、悪かった」
「カミロ様……」
「俺はお前の気持ちをまるきり無視していた。おまけに鈍い。やっと自分のエゴであったと気付いた愚か者だ」

 謝って許されることではないが、目の前にいるフィーナへ謝らずにはいられなかった。それが自己満足であったとしても。

「許されようとは思わない、お前を深く傷つけた」
「……はい、傷付きました。でも私も考えてみたんです。カミロ様の言葉を」

 フィーナの手に、わずかに力がこもる。
 
「結婚はお互いが本気でなければと……実際、その通りでした。私も相手もすぐ辞められる、全てそんな縁談だったのかもしれない」
「あ、ああ」

『中途半端な縁談は流れて当然だ』
 以前カミロはそう言った。そしてその言葉通り、見合い相手の彼らはカミロの牽制で簡単に断りを入れてきた。

「でもカミロさまは、他の方々と違って本気のようでした」
「ああ、そのつもりだった」
「私、カミロ様が私と本気で結婚しようと思ってるなんて、ずっと信じていなかったのですが。それなら、私が本気になればこの縁談こそ成立するのではと」

 耳を疑った。
 フィーナの言うことが理解できない。

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