十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
「……は? 何の事を言っている?」
「カミロ様との縁談についてです」

 疲れ切っていた頭が更に混乱する。
 フィーナとの縁談は、自業自得のまま終わったはずだ。ついこの間、拒否されたばかりではなかっただろうか。

「お、おい、フィーナ……正気か?」
「正気ですし、本気になりたいと思っています」
「俺とトルメンタ伯爵家で、一生暮らすことになるんだぞ」
「カミロ様こそ……これで最後にしろと仰ったけれど、果たしてそのお覚悟はあるのですか」

 フィーナは勢いよく立ち上がり、カミロをじろりと見下ろした。

「浮気はしないと誓えますか」
「し、しない。するわけが無い」
「私よりも長生きする自信はありますか」
「ああ。今以上に身体には気を遣おう」
「お、お覚悟は……」
「俺の人生には、お前だけだ」

 気丈に振る舞う彼女の瞳には、みるみるうちに涙が溜まってゆく。ついにぽろぽろと涙が溢れたフィーナの頬にそっと手を伸ばすと、彼女は照れたように目を逸らした。
 ああ……幸せとは、こういうものなのでは無いだろうか。自分の手はこの涙を拭うためにあったのだと、心からそう思った。

「私……し、信じても良いのですか」
「っ、フィーナ」

 カミロはフィーナを力の限り抱きしめた。突然のことに彼女は腕の中から逃げようと藻掻くけれど、こればかりは我慢できそうにない。

「痛いです! カミロ様」
「俺と……家族になってくれ、フィーナ」
「……はい、カミロ様……はい」 
 
 なおも抱きしめ続けていると、彼女は諦めたように身を委ねた。フィーナの小さな手が、カミロの背中へと恐る恐る回される。その温もりに、信じられないくらいの満ち足りた気持ちがカミロを襲った。



「フィーナは、やはり誰にも渡せない」
「……カミロ様のお眼鏡にかなう相手は、カミロ様以外いませんよ」

 決意を新たにするカミロを見上げ、彼女はぽつりと呟いた。

 泣き笑う、愛しいフィーナ。
 二人は静かに瞼を伏せると、やがて顔を寄せ合いキスをした。

 間近にある彼女の瞳には、自分勝手で心の狭い男の顔が映っている。
 やっと心から笑い合えた二人を、夜の闇がやさしく包み込んだのだった。


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