十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。

積年の想いは加速して

「フィーナちゃん、私のことは『お母様』って呼んでいいのよ」
「私はこれからフィーナのこと『お姉様』って呼ぶからぁ」

 今朝、フィーナはカミロと和解したことを皆に報告した。すると、途端にディレットとチェリが『家族』としてぐいぐい迫ってくるようになってしまった。

 とは言っても昨日の今日で。いきなりディレットのことを『お母様』なんて呼べないし、チェリからの『お姉様』にも違和感がありすぎる。

「いきなりはまだ少し……徐々に慣れていきませんか」
「だって嬉しいんだもの。さあ、呼んでみてフィーナちゃん!」
「……お、『おかあさま』」
「やだー、お姉様可愛いぃ」
「フィーナちゃん! もう一回呼んで! もう一回!」

 フィーナがいくらぎこちなくても、ディレットもチェリもその呼び方を嬉しそうに喜んだ。恥ずかしいけれど、彼女たちに喜んでもらえることは満更でもない。

「でも私とカミロ様、婚約もまだまだ先なのですよ。少し気が早いのでは」
「何言ってるの、あっという間よ。絶対に婚約させてみせるからフィーナちゃんは気楽に待っていて」

 今の段階で言えばフィーナ達はまだ、ただの『見合い相手』に他ならない。いわば口約束だけの不安定な関係だ。
 フィーナはディレット生家のツテを頼り、遠縁の養子になってから婚約の手続きを踏むことで落ち着きそうだ。よって、養子や婚約の手続きが終わるまでしばらくはこの関係が続くことになる。

「お兄様は待てるかしらぁ」
「待ってもらうわよ、フィーナちゃんと結婚したいのなら。これが最善の策なのだから」
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