十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
「…………カミロ様?」

 現れたのは……なぜか、カミロだった。

 彼はカツカツと靴を鳴らしながら、一直線にフィーナのテーブルまでやって来た。
 店内の視線が、一気に彼へと集中している。
 つまり、めちゃくちゃ浮いている。

「ずいぶんと、めかしこんでいるな」

 フィーナはこの日のために、ワンピースを新調していた。慣れないネックレスもつけてみた。靴も履きなれない華奢なもので、栗色の髪は念入りに梳かしてつやつやで。

 目指すは清楚。チェリ大先生からの「フィーナは色気無いから清楚系で攻めてみたらぁ?」というありがたいアドバイスをもとに、人生史上最高に頑張ったのだ。

「そりゃ……めかしこみますよ。私、今回のお見合いに賭けてますから。それよりカミロ様、どうしたのですかこんなところで」
「見合いに来た」
「? 私のお見合いが心配で、見に来てくれたんですか」
「今日の見合い相手については、心配など要らない」

 カミロは今日の相手を知っている様子。そのうえ、今回の縁談は上手くいきそうな口振りである。フィーナを心配して安心させようなんて、彼もなかなか優しいところがあるじゃないか。

「そうですか、それは安心です。ありがとうございますカミロ様」
「ああ」

 カミロはおもむろに向かいの席へと腰掛けた。そして給仕の者にコーヒーとフィーナ用のケーキを頼むと、腕を組んで落ち着いてしまった。

 困った。申し訳ないが、そこは見合い相手が座るべき席だ。待っていれば来るはずなのに、その席でカミロが威圧感漂わせながらコーヒーを飲んでいては……

「あの、もうすぐお相手の方が来るかもしれません。カミロ様がいらっしゃると萎縮してしまうかもしれませんし、どうかお引き取りいただけると……」
「どういう意味だ」
「カミロ様ちょっとお顔が怖い方なので」
「お前……っ」

 失礼を承知の上で帰るよう促しても、依然としてカミロは席を立たないし、見合い相手もやって来ない。

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