嘘はやがて、花を咲かせる。
今更
ミンミンと蝉が鳴いている。
夏休みの学校は静かで、虫の鳴き声がよく響く。
部活の為に学校に来た私は、コンピュータ室に向かう前に『商高花壇』に来ていた。
元気に大きな黄色い花を咲かせている向日葵。
長い花壇に等間隔で咲いている向日葵は圧巻だ。
「紗奈、おはよ!」
向日葵に見惚れていると、後ろから人が突撃して来た。
「香織、おはよう」
「これ生徒会が管理している花壇よね。向日葵こんなに咲いて凄いじゃん…!」
「私が育てました」
「さすが紗奈! もうこの花壇にさ、紗奈の写真でも立てといたら? あれ、お野菜の生産者みたいに! 私が育てましたって」
「何それ、めっちゃ面白い」
そんなこと言いながら、コンピュータ室に向かって歩き始める。
外は汗が噴き出るほど暑かったが、校舎内は少し涼しくひんやりしていた。
「挨拶週間から生徒会の方は何かあった?」
「いや、無いよ。とりあえず文化祭準備まで生徒会の出番も無いし。あれから長谷田先生とも会っていない」
「まぁそうか。ここ最近、最初からずっと部活に来ているもんね!!」
夏休みが終われば、文化祭の準備シーズンに入る。
そうなると、生徒会の方がまた忙しくなる。
どういうプログラムで、どんな風に行うか。
それを決めて実行するのも、生徒会の役目だ。
「…ふぅ」
今年の文化祭がどうなるか。
全て、長谷田先生の腕に掛かっている。
私は…知らね。
「おはようございまーす」
コンピュータ室に入ると、既に星乃部長と澤村副部長、そして峯本先生がいた。
「あ、渡里ちゃんと白石ちゃんおはよ。ちょっと来て来て」
「はーい」
部長に呼ばれ、近くに寄る。
3人はスマホで動画を見ていた。
「え……これ、長谷田先生ですか?」
「そう。峯本先生が撮ったの」
盗撮…。
そんな言葉が過るが黙っておく。
動画の中の長谷田先生は、学校内の色々な箇所を掃除していた。
「何で長谷田先生が掃除しているのですか?」
…その問いの答え、私には分かる。
「…夏休み中の校内清掃は、生徒会の仕事だからです」
知っていたけれど。
私はその清掃を放棄していた。
掃除くらい…と言ったら言い方が悪いけれど。
生徒総会の準備などと比べて、掃除はそこまで重要ではないから。
やらなくていいや。…そう思っていた。
「俺が何故これを撮ったかって、長谷田も何だかんだ言いながら成長してるって伝えたくて。…あの、挨拶週間の時、まさかうちの部員が立っていたとは思わなくて。話を聞いた時は本当にビックリしたんだ。だけど誇らしくもあったよ」
「星乃が長谷田にきついこと言って叱ったんだろ? だから、君らに見せておこうと思って。あれから少しずつ、改心してるんじゃない?」
複数動画がある。
昇降口を箒で掃いていたり、棚や窓を拭いたり。
教室以外の共有部分を中心に掃除していた。
「けどおかしくない? 自分でやるくらいなら、生徒会のメンバーを指導してやらせればいいのに」
「そこまでして指導しない理由って何だろう」
…確かに。
長谷田先生はあの8人の指導をせず。
真面目にやっている私を咎めて…周りから指摘されたら、自分が活動を行うなんて。
全く、意味が分からない。
「まぁ、とにかく。そういうことだから。今後はこれ以上あまり言ってやるなよ。長谷田が可哀想だから」
その言葉に星乃部長が飛び跳ねた。
「はぁ!? 可哀想なわけあるかい!! 可哀想なのは渡里ちゃんだよ!!」
そうだそうだ!!
と、みんなが野次を飛ばす。
私も同感だ。
長谷田先生が可哀想というのは納得いかない。
「………まぁまぁ、分かったから。星乃、それにみんなも…渡里も。……………俺に、言わないで? ………ちょっとプリント取ってくるね~」
そう言って峯本先生は早足でコンピュータ室から出て行った。
教壇にはプリントの山が置いてある。
「あ、逃げやがった!!!」
…けれど、峯本先生は本当に関係無いからね。
言ったところでどうしようもない。
小さく溜息をついて、自分の席に座る。
私の脳裏には、さっき見た長谷田先生の姿が焼き付いていた。