嘘はやがて、花を咲かせる。
生徒会長
「では…続きまして、生徒会長挨拶。生徒会長、渡里紗奈」
「はい」
入学式。
新1年生がキラキラとした表情で入学してきた。
私にもそんな頃があったなぁなんて思って、少し可笑しくなる。
ゆっくりとステージに登壇し、演台の前に立つ。
全体を見回すと沢山の人が、こちらを見ていた。
香織。
峯本先生。
そして…長谷田先生。
生徒会長としての初仕事だ。
…よし。
頑張れ、私。
「生徒会長の渡里紗奈です。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。禎原商業高校へようこそ! これから皆さんと共に学校生活を送れることを楽しみにしていました。本校は商業科です。社会に出ても恥ずかしくない人材を育成する訓練校です。簿記や情報処理など、初めての科目にも出会うと思いますが、全て皆さんの身になります」
挨拶文を読みながら、全体に目を向ける。
新入生も新生徒会も、先生たちも。
みんなが真剣な眼差しでこちらを見ている。
「……もし今後、学校生活で困ったことがあったら、すぐに助けを求めることを覚えておいてください。それは同級生に限らず、先輩や先生たちにも…沢山助けを求めてください。今年度の生徒会スローガンは『1人で抱えない』です。小さなことも大きなこともお互い支え合って、禎原商業に通う全員が楽しく健康的に学校生活を送れることを願っております」
その後、入学式は無事に終わり生徒会室に戻った。
部屋には私と香織と長谷田先生の3人がいる。
「紗奈、かっこよすぎ!! 感動しちゃったよ。本当、困難を乗り越えた強者って感じ」
「それ褒めてるの?」
「褒めてるよ!! 紗奈、これまでも頑張ったけど…これからも頑張れ~」
そう言いながら香織は私を抱きしめた。
「なぁ…俺もいるけど?」
「あぁ。先生は空気で良いです。紗奈を苦しめた人に用は無い」
「……」
先生は軽く目を閉じて何かを考えている…。
「そうだ、白石。思い出した」
「何ですか」
「体育館に生徒手帳が落ちてたぞ。お前の」
「はぁ!?」
香織は制服のポケットを確認する。
どうやら、本当に無いようだ。
「いつもポケットに入れているの! 本当に無い…!」
「だから落ちてたって言ってんだろ。取りに行ってくれば?」
「先生の鬼!!! 拾って持ってきてくれたら良いじゃないですか!!」
「何で俺が拾わないといけないんだよ」
「うわ、本当に最低!!!!! 先生のバーカ!!」
ちょっと行ってくる!
そう言って香織は生徒会室から出て行った。
「…先生、最低」
「お前も言うのか」
先生は私の方に近付いてきて優しく抱きしめる。
手付きが本当に優しくて、心臓が飛び跳ねた。
「こうしたかったから、白石を追い出したんだけど」
「………最低」
「そうか。…まぁもう、何言われても良いけど。………取り敢えず、会長挨拶良かったよ。お疲れ」
「…ありがとうございます」
頭を撫でてくれる先生の手が気持ちいい。
つい、先生の胸に体を預けてしまう。
「なぁ渡里。俺のこと、まだ嫌いか?」
「…まだって、どういうことですか」
「俺のこと好きって、聞いていないんだけど」
「それは私も同じです。好きって聞いていませんよ」
「……」
お互い、黙り込んだ。
嘘ばかりだった2人。
嫌いという言葉に隠した、好きという言葉。
…今更、出てこない。
「……俺に言わせるな」
「じゃあ私も。私に言わせないでください」
抱きしめあったまま、お互いを睨み合う。
ひたすら、睨む。
「………ぶふっ」
先に耐えられなくなったのは、先生の方だった。
「いや…もう、お前には敵わんわ」
そう言って思い切り笑った後、優しい表情をした。
「渡里、好きだよ。ずっと俺の側にいろ」
「……うわ…後半の言葉は余計です…」
「はぁ!?」
「…先生、好きです。ずっと私の側にいてください」
「…何だそれ。同じこと言ってんじゃねぇよ」
見つめ合いながら、先生が唇を近付けてくる。
そして、触れる寸前で止めた。
「………」
「………ほら、渡里からして」
「……最低………意地悪」
そう答えながらも、私はそっと先生の唇に触れた。
「…上手じゃん」
そう言った長谷田先生の顔は…見たことが無いくらい笑顔だった。
花壇に咲いた3色のチューリップは、今日も元気に咲き誇っている。
嘘はやがて、花を咲かせる。 終