【短編版】子猫令嬢は婚約破棄されて、獅子となる
 リディは椅子から立ち上がり、ゆっくりと壇上へ向かう。
 ミカエラの顔は満足そうな顔をしており、その隣に立っているルルアもほくそ笑んでいた。

「なんだ、言いたいことでもあるのか? 言えるわけないよな? 『子猫令嬢』リディのお前が」

 ミカエラの高笑いが講堂内に響き渡った。
 しかし、彼の嘲笑に動じることなく、リディは告げる。

「ミカエラ殿下、あなたにとって私では不足だったのかもしれませんね」
「そうだな、この高貴で勇猛果敢な『獅子』の私にお前では釣り合わなかったようだ。同じ『獅子』でもお前ではなく、ここにいるルルアの方がよほど未来の妃として才がある」

 ミカエラの言葉にルルアが口元をおさえて、瞬きを一つした。
 
(ルルア様、口元をおさえているけれど、笑っているわね)

 リディは内心そう思った。
 しかし、彼女の態度を気にすることなくリディは自らのスカートの裾をちょんとつまんで、壇上にいる二人にお辞儀をした。

「ミカエラ殿下、わたくしリディ・ヴェルジールはあなた様からの婚約破棄のお申し出を受けさせていただきます」
「なんだと……?」

 あまりにもすんなりとリディが婚約破棄を受け入れたため、ミカエラは怪訝そうに言った。
 自分が知る限り気弱で内気なリディが泣いてすがるわけでも、目を潤ませてその場を去るわけでもなく、真っ向から意志の強い瞳を向けて申し出を受け入れると言ったことに、ミカエラは動揺した。
 そんなミカエラと彼の隣で目を細めて警戒しているルルアにちらりと目をやった後、壇上横にいる王族席に目をやった。
 そこには国王と王妃がおり、周りを衛兵たちが警護している。
 そして、そんな王族席に足を踏み入れる者が一人いた──。

(準備が整ったようね)

 その様子を見てリディはゆっくりと微笑んだ。

「な、何がおかしい!」

 焦った様子のミカエラにリディは左右に首を振って返事する。

「おかしいことは何もございませんわ、ミカエラ殿下。ですが、元婚約者として最後に言いたいことを申しますわ」

 リディは口を開いた──。
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