【短編版】子猫令嬢は婚約破棄されて、獅子となる
第2話
この国──ウィンダルスの国民は皆生まれた時に、この世界を作ったとされる五神である『獅子』『鷲』『蛇』『山椒魚』『鮫』のうちの一つの神の加護を受ける。
生まれて五日の間に最寄りの教会で聖女の『神の目』によって信託を受け、その者がどの加護を受けたのか、ご神託を得るのだ。
その信託を得たことによりウィンダルス国民とみなされ、この国での住民権をもらう。
この国では『獅子』『鷲』『蛇』『山椒魚』の加護が良いとされ、特に獅子の加護を持つ者は最も気高く素晴らしい人間と評される。その逆に『鮫』の加護を持つ者は下位の人間、つまり下賤の民とみなされた。
『獅子』が最も権威を持っているのは、ウィンダルスを建国した初代国王が『獅子』の加護を得ていたからだ。
では、『鮫』がどうして下賤の民と言われているのか。
ウィンダルスでそうした上下関係ができてしまったのは、今からちょうど百年前である。
当時の聖騎士長であったベリリズアが国家に対して反逆を起こしたのだ。
冬に起こったこの反逆事件で王都の半分は火事で焼失し、重要文化財は失われ、そして逃げ遅れた国民が多く亡くなった。
ベリリズアはこの火事の中で自らの命を絶ったが、この反逆事件は多くの国民の記憶に残り、傷を残した。
このベリリズアの加護が『鮫』だったのだ。
当時の国王はこの事件の後に行なわれた式典で、「『鮫』の加護を持つ者は野蛮であり、悪しき心が宿っている」と発言し、翌年には今の身分制度のもとになる「神位制度」を作った。
この制定によって正式に国が『獅子』を最も優れた者と位置づけ、そして『鮫』を悪人として認めることとなった。
リディ・ヴェルジールはそうした身分制度の社会のもとに生まれた。
彼女は四大公爵家の一つ、ヴェルジール家の娘として生まれ、教会の聖女によって『獅子』の加護を持つ者として信託を受けた。
転機は彼女が七歳の頃だった。
ウィンダルス国第一王子であるミカエラ・ウィンドリアスの婚約者として、リディが選ばれたのだ。
王族の多くは原則、四大公爵家から婚約者を選ぶ。
ミカエラと年がそう変わらない公爵令嬢が三人いる中で、リディが選ばれたのは、彼女一人だけが『獅子』の加護を持つ者だったからだ。
リディの二歳年上のミカエラは、彼女の美しい紫の瞳を気に入った。
しかし、その寵愛は段々薄れていくこととなる。
リディは非常に思慮深い性格であったが、ミカエラはそれを「内気」「弱気」とマイナスに捉え、彼女を否定していった。
「たくっ! お前はもう少し明るく振る舞えないのか!」
「申し訳ございません」
「そんな貧相な体で明朗さの欠片もないお前は、まるで捨てられた子猫のようだな!」
この時のミカエラの発言から噂が広がり、学院では密やかにリディは『子猫令嬢』と呼ばれていた。
それを聞いた大人たちは可愛らしいものだと笑っており、『子猫令嬢』が悪口の一つであることに気づく者はいなかった。
学院の者たちは公爵令嬢であるリディを大っぴらにそう呼ばないが、陰で皆そのように嘲笑っていた。
もちろんリディは、そのように自分が陰口の対象になっていることを知っていたのだが……。
(今日もひそひそ話されていたわね)
リディはそんな風に思って空を見ながら、屋上で一人サンドイッチを食べていた。
すると、そんな彼女に人影がかかる。
生まれて五日の間に最寄りの教会で聖女の『神の目』によって信託を受け、その者がどの加護を受けたのか、ご神託を得るのだ。
その信託を得たことによりウィンダルス国民とみなされ、この国での住民権をもらう。
この国では『獅子』『鷲』『蛇』『山椒魚』の加護が良いとされ、特に獅子の加護を持つ者は最も気高く素晴らしい人間と評される。その逆に『鮫』の加護を持つ者は下位の人間、つまり下賤の民とみなされた。
『獅子』が最も権威を持っているのは、ウィンダルスを建国した初代国王が『獅子』の加護を得ていたからだ。
では、『鮫』がどうして下賤の民と言われているのか。
ウィンダルスでそうした上下関係ができてしまったのは、今からちょうど百年前である。
当時の聖騎士長であったベリリズアが国家に対して反逆を起こしたのだ。
冬に起こったこの反逆事件で王都の半分は火事で焼失し、重要文化財は失われ、そして逃げ遅れた国民が多く亡くなった。
ベリリズアはこの火事の中で自らの命を絶ったが、この反逆事件は多くの国民の記憶に残り、傷を残した。
このベリリズアの加護が『鮫』だったのだ。
当時の国王はこの事件の後に行なわれた式典で、「『鮫』の加護を持つ者は野蛮であり、悪しき心が宿っている」と発言し、翌年には今の身分制度のもとになる「神位制度」を作った。
この制定によって正式に国が『獅子』を最も優れた者と位置づけ、そして『鮫』を悪人として認めることとなった。
リディ・ヴェルジールはそうした身分制度の社会のもとに生まれた。
彼女は四大公爵家の一つ、ヴェルジール家の娘として生まれ、教会の聖女によって『獅子』の加護を持つ者として信託を受けた。
転機は彼女が七歳の頃だった。
ウィンダルス国第一王子であるミカエラ・ウィンドリアスの婚約者として、リディが選ばれたのだ。
王族の多くは原則、四大公爵家から婚約者を選ぶ。
ミカエラと年がそう変わらない公爵令嬢が三人いる中で、リディが選ばれたのは、彼女一人だけが『獅子』の加護を持つ者だったからだ。
リディの二歳年上のミカエラは、彼女の美しい紫の瞳を気に入った。
しかし、その寵愛は段々薄れていくこととなる。
リディは非常に思慮深い性格であったが、ミカエラはそれを「内気」「弱気」とマイナスに捉え、彼女を否定していった。
「たくっ! お前はもう少し明るく振る舞えないのか!」
「申し訳ございません」
「そんな貧相な体で明朗さの欠片もないお前は、まるで捨てられた子猫のようだな!」
この時のミカエラの発言から噂が広がり、学院では密やかにリディは『子猫令嬢』と呼ばれていた。
それを聞いた大人たちは可愛らしいものだと笑っており、『子猫令嬢』が悪口の一つであることに気づく者はいなかった。
学院の者たちは公爵令嬢であるリディを大っぴらにそう呼ばないが、陰で皆そのように嘲笑っていた。
もちろんリディは、そのように自分が陰口の対象になっていることを知っていたのだが……。
(今日もひそひそ話されていたわね)
リディはそんな風に思って空を見ながら、屋上で一人サンドイッチを食べていた。
すると、そんな彼女に人影がかかる。