破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます
 こうしてオスカーは売られるようにして伯爵家にやってきた。
 貴族学校への入学やミヒャエルとの剣術の稽古は、オスカーが実家で暮らしていたら到底叶わなかったはずの好待遇だ。
 いずれはドリスと結婚して伯爵家の後継者に――ミヒャエルのその期待に応えるため、オスカーは必死に勉強と剣術の稽古に励み続けた。
 ミヒャエルに感謝してもしきれないほど恩義を感じているオスカーの生い立ちは、ゲーム内の回想ムービーで語られる。

 オスカーは不遇な少年期と多忙な青年期を経てエーレンベルク伯爵家の執事見習いになったため、恋愛にはあまり縁がない。
 生真面目な性格ゆえに、不本意ながらもドリスと婚約してからはきちんと操を立てて女遊びもしなかった。
 ゲームでは結果的にドリスを追放するわけだが、彼女がドアを叩きながら、
「開けて! あなたを……愛してるの。オスカー!」
と叫んだ言葉がずっと耳について離れず、それ以降、呪いのように彼を苦しめることになる。

 極寒の道を裸足で歩き修道院の扉にすがりつくように凍死していたというドリスの最期を聞き、彼は自責の念に苛まれる。その苦悩を救うのがプレーヤーの操作するヒロインだ。
 それがゲームシナリオだからといって、わたしはもちろん死にたくない。この世界で楽しく長生きしたい。

 だいたい身内の殺し合いだなんて展開はもう古いのよ。わたしはこの世界をもっと明るくハッピーなものにしてみせる!
 かかってきなさい、破滅フラグ! へし折りまくってやるわ!

 部屋の家具が落ち着いた色調になったおかげで、ようやくわたしは腰を落ち着けて文字の練習に励めるようになった。
 1カ月が過ぎる頃にはようやく読める文字になってきた。
 なにをやっても長続きしなかったドリスがコツコツ頑張っている――その姿にいたく感激したミヒャエルは、ついに本格的な家庭教師を雇ったのだった。
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