破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます
「何? 僕が答えられることならいくらでも相談にのるけど」
 
 そう、このセリフもこの笑顔も、ゲームのヒロインが初めてアルトに話しかけた時の受け答えと同じだ。
 思わずポカンと呆けたようになってしまったわたしのことを、アルトが心配そうにのぞき込む。
「ドリスちゃんだよね?」
 慌ててブンブンと大きく首肯して、その手を握った。
「そうです!」
 
 追いかけてきたハンナがわたしを窘めようとするのを、アルトが制した。
「ご心配なく。すぐに戻って来いとは言われていませんから」
 その言葉に感謝しながらアルトを応接室に案内し、ハンナにお茶の用意をしてもらった。

「オスカーによく手紙を書いていたんです」
 ソファの向かい側に座り優雅な所作で紅茶を口に運んでいたアルトがぷはっと笑う。
「知ってるよ。騎士団では有名だったからね」
 
 それは良いほうか悪いほうか、どっちで有名だったんだろうか!?
 
「あの……そのことで。もしかするとオスカーが迷惑そうにしていたり、訓練の邪魔になっていたりしなかったかと思って」
 本当はそんな心配など微塵もしていなかったが、アルトと仲良くなるためには共通の話題であるオスカーのことを持ち出すのが一番だろう。
 
 するとアルトは、さらにおかしそうに笑った。
「全然! むしろ僕は、あんなオスカーの姿を拝めて感謝しているぐらいだよ」

 どういう意味!?

 アルトによれば、騎士団は私的な手紙にも検閲が入るらしい。
 毎日、口元をニヤけさせた検閲官が「今日もラブレターが届きましたよ」と言って、オスカーにわたしの手紙を渡していたようだ。
「ドリスは現在、文字の練習中ですゆえ」
 オスカーはそう言いつつも頬を緩ませながら受け取り、手紙を読んでいる最中は周囲にぽわぽわと小さな花が咲いているように見えたんだとか。
 
「信じられないよ。堅物でいつも悲壮感を漂わせていたオスカーの周りに花が咲くだなんて!」
 そんなオスカーの様子に、周りも驚いていたらしい。
 
 訓練から戻って来たオスカーは、いつもの仏頂面だったのに?
 
「できれば訓練のたびに手紙を送ってもらえると、僕たち楽しくて助かっちゃうんだけどね」
 アルトが茶目っ気たっぷりにウインクする。
 その時、応接室のドアがノックもないまま乱暴に開かれた。
 
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