破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます
「アルト!」
大股でズカズカ入って来るオスカーの顔が険しい。
「おまえ帰ったんじゃなかったのか。ここで何をやっている」
アルトがまだ屋敷に滞在していてわたしとお茶していると聞きつけてやって来たのだろう。
「オスカー、ごめんなさい。わたしがアルトお兄様のことを引き留めたの」
慌てて立ち上がり釈明しようと振った手を、どういうわけか同じく立ち上がったアルトにぎゅっと握られてしまった。
「もう1回言って!」
「え?」
アルトが期待にあふれた目でこちらを見ている。
「もう1回、僕の名前を呼んで」
「アルトお兄様?」
首をこてんと傾げながらそう呼ぶと、アルトの顔がぱあッと輝き周囲に大輪の花が咲き乱れた。
無論、これは作戦だ。
末っ子のアルトを「お兄様」と呼べば、喜ぶにちがいないと。
チョロいわね、アルト!
「嬉しいっ! お兄様なんて呼ばれるの初めてなんだ。いいものだねえ、こんなに愛らしい子にお兄様って呼ばれるのは。オスカーがメロメロになるのも納得……ぐはっ!」
話の途中で後ろからオスカーに羽交い絞めにされたアルトの手がわたしから離れていく。
「ドリスお嬢様、こいつは裏表の激しい危険な男です。近づかないようにしてください」
オスカーの声がいつもよりも低い。
ええ、知ってます。その人がドリスのことを陥れたんですもの。
でもドリスのことを見殺しにするあなたのほうがよっぽど危険な男ですけどねっ!
「あのね、わたしの手紙のせいでオスカーに迷惑をかけたんじゃないかって聞いていただけなの!」
アルトを絞め落とす勢いのオスカーを止めようと大きな声を出した。
「手紙?」
オスカーが羽交い絞めにしていたアルトを後方へ投げるようにして解放し、先ほどアルトに握られていたわたしの左手を両手で包み込む。
「それは私とお嬢様の話ですよね。こんなヤツに相談するのではなく、直接聞いてくれたらよかったのに」
「だってオスカーは、いつも仏頂面でよくわからないんだもの」
しゅんとするわたしの手を、オスカーがぎゅうっと強く握った。
「迷惑だなんて思ったことは一度もありません」
ちっ、近い!
オスカーの凛々しい顔がすぐ近くに迫ってきて、心臓が口から飛び出すんじゃないかというほどにバクバク音を立て始める。
なんという眼福。どうしてこの人はこんなに無駄にキラキラしているんだろうか。
「わかった。じゃあこれからは、直接言いにくいことがあれば手紙を書くようにするわ」
そう言うと、オスカーはふわりと甘く微笑んで頷いた。
ふとその後ろに立つアルトを見ると、口元をニマニマさせまくっているではないか。
「お悩みが解決したところで、僕はそろそろお暇するよ」
絞め落とされそうになったにもかかわらず上機嫌なアルトを、オスカーとともに玄関まで見送る。
とりあえずこれで、オスカーの好感度もアルトの好感度も上がったにちがいない。アルトに好印象を持ってもらえたのなら、破滅回避へ前進する大きな一歩となっただろう。
「ドリスちゃん、僕三男だから伯爵家に婿入りしても何ら問題ないからね! 学校を卒業したらけっこ……ぐはっ!」
別れ際にまた軽口をたたいてオスカーに羽交い絞めにされるアルトだった。
大股でズカズカ入って来るオスカーの顔が険しい。
「おまえ帰ったんじゃなかったのか。ここで何をやっている」
アルトがまだ屋敷に滞在していてわたしとお茶していると聞きつけてやって来たのだろう。
「オスカー、ごめんなさい。わたしがアルトお兄様のことを引き留めたの」
慌てて立ち上がり釈明しようと振った手を、どういうわけか同じく立ち上がったアルトにぎゅっと握られてしまった。
「もう1回言って!」
「え?」
アルトが期待にあふれた目でこちらを見ている。
「もう1回、僕の名前を呼んで」
「アルトお兄様?」
首をこてんと傾げながらそう呼ぶと、アルトの顔がぱあッと輝き周囲に大輪の花が咲き乱れた。
無論、これは作戦だ。
末っ子のアルトを「お兄様」と呼べば、喜ぶにちがいないと。
チョロいわね、アルト!
「嬉しいっ! お兄様なんて呼ばれるの初めてなんだ。いいものだねえ、こんなに愛らしい子にお兄様って呼ばれるのは。オスカーがメロメロになるのも納得……ぐはっ!」
話の途中で後ろからオスカーに羽交い絞めにされたアルトの手がわたしから離れていく。
「ドリスお嬢様、こいつは裏表の激しい危険な男です。近づかないようにしてください」
オスカーの声がいつもよりも低い。
ええ、知ってます。その人がドリスのことを陥れたんですもの。
でもドリスのことを見殺しにするあなたのほうがよっぽど危険な男ですけどねっ!
「あのね、わたしの手紙のせいでオスカーに迷惑をかけたんじゃないかって聞いていただけなの!」
アルトを絞め落とす勢いのオスカーを止めようと大きな声を出した。
「手紙?」
オスカーが羽交い絞めにしていたアルトを後方へ投げるようにして解放し、先ほどアルトに握られていたわたしの左手を両手で包み込む。
「それは私とお嬢様の話ですよね。こんなヤツに相談するのではなく、直接聞いてくれたらよかったのに」
「だってオスカーは、いつも仏頂面でよくわからないんだもの」
しゅんとするわたしの手を、オスカーがぎゅうっと強く握った。
「迷惑だなんて思ったことは一度もありません」
ちっ、近い!
オスカーの凛々しい顔がすぐ近くに迫ってきて、心臓が口から飛び出すんじゃないかというほどにバクバク音を立て始める。
なんという眼福。どうしてこの人はこんなに無駄にキラキラしているんだろうか。
「わかった。じゃあこれからは、直接言いにくいことがあれば手紙を書くようにするわ」
そう言うと、オスカーはふわりと甘く微笑んで頷いた。
ふとその後ろに立つアルトを見ると、口元をニマニマさせまくっているではないか。
「お悩みが解決したところで、僕はそろそろお暇するよ」
絞め落とされそうになったにもかかわらず上機嫌なアルトを、オスカーとともに玄関まで見送る。
とりあえずこれで、オスカーの好感度もアルトの好感度も上がったにちがいない。アルトに好印象を持ってもらえたのなら、破滅回避へ前進する大きな一歩となっただろう。
「ドリスちゃん、僕三男だから伯爵家に婿入りしても何ら問題ないからね! 学校を卒業したらけっこ……ぐはっ!」
別れ際にまた軽口をたたいてオスカーに羽交い絞めにされるアルトだった。