破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます

ミヒャエルと投資事業

 家庭教師のマイヤ夫人からは、護身術も教わっている。

「ドリスお嬢様、もっと本気で殴ってくれていいですよ?」
 オスカーの笑いを含んだ声にムッとして腰を入れ直し、みぞおちめがけて拳を叩きつけてみたけれど、硬い筋肉に覆われた体はビクともしない。
 むしろわたしの手のほうがどうにかなりそうだ。
「もうっ!」
 ムキになって両手でポカポカ殴り続けるわたしを見下ろして、オスカーが「あははっ」と大きな声で笑う。

 最近、オスカーはよく笑うようになった。
 
 オスカーの笑い声が庭に響き渡ったところで、ミヒャエルも庭に出てくるのが護身術のレッスンのお約束パターンとなっている。
 わたしの楽し気な声が聞こえると、居ても立ってもいられなくなるのだろう。
 執務を猛烈な勢いで終わらせてしまうミヒャエルだ。
「楽しそうだね」
「オスカーのお腹が硬すぎるの」
 笑いながらやって来たミヒャエルを振り返ると、ブンブン揺れる尻尾とぴょこぴょこ動く三角の耳が見える。
 構ってほしいということだろう。
 しかしミヒャエルの体もまた鋼の筋肉に覆われているわけで、拳でポカポカ叩いても何のダメージも与えられないことはわかっている。
 
 だったら……。
 奇襲のコチョコチョ攻撃よっ!

 懐に飛び込むようにミヒャエルに駆け寄ると、服の上からわき腹をくすぐった。
「うわっ! ドリス……ちょっ、あははっ!……降参、降参だ」
 まさかの攻撃にミヒャエルが身をよじりながらあっさり白旗を上げる。
 
「どうだ!」
 ふんすと胸を張るわたしをミヒャエルがぎゅうっと抱きしめた。
「ドリス、くすぐり攻撃は反則だ」
 
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