破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます
カタリナ・ドラール。今回のヒロインはあなたってこと……?
「どうなさったの?」
笑顔を向けると、カタリナはキョロキョロあたりを見回した後に首を傾げた。
綺麗な銀髪がサラっと揺れて細い肩から滑り落ちる。
「ここに誰かいませんでした?」
呪いアイテムの入った麻袋がバッグからはみ出していないことをこっそり確認した。
「さあ? わたしか迷ってここに来てしまった時にはどなたもいなかったけど。付き添いの方をお探しですか?」
とぼけて質問で返す。
カタリナは尚も首を傾げている。
「そうなんです。付き添いとはぐれて探していたらここまで来てしまって」
あなたがヒロインなのだとしたら、謎の商人ではなく呪って早々に退場させようと思っていた張本人がいてびっくりしたでしょうね。
内心ほくそ笑みながらカタリナへと歩み寄る。
「付き添いの方はもう中へ入られたんじゃないかしら。そろそろ式が始まってしまうわ、わたしたちも参りましょう」
カタリナは困惑しながらも「そうですわね」と頷いた。
成り行きでカタリナと並んで新入生入り口に向かう。
公爵令嬢と伯爵令嬢。
家格から言えばカタリナのほうが上位貴族であるため、本来ならば砕けた口のきき方をしてはならないし並んで歩くことも憚られる相手だ。
しかし貴族学校では身分に関係なく、生徒の扱いは平等となっている。
歩く途中で、彼女のハーフアップにした銀髪を留めているアクセサリーに紫水晶があしらわれていることに気づいた。
「あら、その髪留めの紫水晶って……」
「これは父が出資しているシャミスト鉱山で採れた最高級の……待って、あなたのそのペンダントヘッドももしかして!?」
すぐに気づくとは、さすが聡明なカタリナだ。
うふふっと笑いながら手を差し出す。
「共同出資者のエーレンベルク伯爵家のドリスです。あなたはドラール公爵家のカタリナさんね? どうぞよろしく」
「先ほどは名乗りもせずに失礼しました。カタリナ・ドラールです」
カタリナが握手に応じながら口角を上げて整った笑みを浮かべた。
さすがは公爵令嬢だ。
なにを考えているのかまったくうかがうことのできない笑顔の仮面をつけている。
「その髪留め、カタリナさんの綺麗な髪と瞳にぴったりでとてもよくお似合いだわ。センスのいい方がデザインされたのね。それに職人さんの腕も一流だと思うわ」
おべっかではなく本心だ。
オーダーメイドの一点ものだろう。カタリナの銀髪にしっくりなじんでよく似合っている。
「ありがとう。デザインはお母様とわたくしが一緒に考案しましたの。あなたもそのペンダントもよくお似合いですわ。わたくしほどではないけれど!」
突然早足になって先に行ってしまったカタリナの耳がほんのり赤く染まっているのが見えた。
カタリナのツンデレは健在のようだ。
くすくす笑いながらその後ろ姿を追ったのだった。
入学式が滞りなく終わり、自邸へと帰る馬車の中でのこと。
わたしは、さいはめルートを阻止できたことに大いに満足していた。
カタリナがヒロインかどうかなんて知ったこっちゃない。
ハルアカのガチプレーヤーとしての知識を駆使してドリスの破滅フラグを折りまくっていけばいいだけだ。
それはいいとして、正面に腰かけるオスカーの様子がどうもおかしい。
こちらをチラチラうかがいながら何か言いたそうな顔をしている。
破滅フラグを回避できたことで、口元をだらしなく緩ませていたかもしれない。
それをどう注意しようか迷っているんだろうか。
「オスカー? どうかした?」
いつまでも言わないから、すまし顔でこっちから促してみた。
ようやくオスカーが、神妙な顔で口を開いた。
「ドリスお嬢様は……私との婚約の話を断ったそうですね」
なんだ、そのことか。
もしかして不満なの? あんなに嫌がっていたくせに!
「そうよ。前も言ったけど、わたしを大切にしてくれる人と結婚したいの。オスカーは、わたしのことなんて好きじゃないでしょう?」
どうぞカタリナと結婚してちょうだい。
公爵家の婿養子になれば、お金に困ることはないはずだわ。
「パパがオスカーを跡継ぎにって言ったことは知ってるけど、気にすることなんてないのよ? わたしが別の婿を探すから、どうぞご心配なく」
この話はこれでおしまいよ! という意思表示として、プイッ横を向き窓の外の景色を眺めた。
視界の端で、オスカーがそっと目を伏せるのが見えた。
「どうなさったの?」
笑顔を向けると、カタリナはキョロキョロあたりを見回した後に首を傾げた。
綺麗な銀髪がサラっと揺れて細い肩から滑り落ちる。
「ここに誰かいませんでした?」
呪いアイテムの入った麻袋がバッグからはみ出していないことをこっそり確認した。
「さあ? わたしか迷ってここに来てしまった時にはどなたもいなかったけど。付き添いの方をお探しですか?」
とぼけて質問で返す。
カタリナは尚も首を傾げている。
「そうなんです。付き添いとはぐれて探していたらここまで来てしまって」
あなたがヒロインなのだとしたら、謎の商人ではなく呪って早々に退場させようと思っていた張本人がいてびっくりしたでしょうね。
内心ほくそ笑みながらカタリナへと歩み寄る。
「付き添いの方はもう中へ入られたんじゃないかしら。そろそろ式が始まってしまうわ、わたしたちも参りましょう」
カタリナは困惑しながらも「そうですわね」と頷いた。
成り行きでカタリナと並んで新入生入り口に向かう。
公爵令嬢と伯爵令嬢。
家格から言えばカタリナのほうが上位貴族であるため、本来ならば砕けた口のきき方をしてはならないし並んで歩くことも憚られる相手だ。
しかし貴族学校では身分に関係なく、生徒の扱いは平等となっている。
歩く途中で、彼女のハーフアップにした銀髪を留めているアクセサリーに紫水晶があしらわれていることに気づいた。
「あら、その髪留めの紫水晶って……」
「これは父が出資しているシャミスト鉱山で採れた最高級の……待って、あなたのそのペンダントヘッドももしかして!?」
すぐに気づくとは、さすが聡明なカタリナだ。
うふふっと笑いながら手を差し出す。
「共同出資者のエーレンベルク伯爵家のドリスです。あなたはドラール公爵家のカタリナさんね? どうぞよろしく」
「先ほどは名乗りもせずに失礼しました。カタリナ・ドラールです」
カタリナが握手に応じながら口角を上げて整った笑みを浮かべた。
さすがは公爵令嬢だ。
なにを考えているのかまったくうかがうことのできない笑顔の仮面をつけている。
「その髪留め、カタリナさんの綺麗な髪と瞳にぴったりでとてもよくお似合いだわ。センスのいい方がデザインされたのね。それに職人さんの腕も一流だと思うわ」
おべっかではなく本心だ。
オーダーメイドの一点ものだろう。カタリナの銀髪にしっくりなじんでよく似合っている。
「ありがとう。デザインはお母様とわたくしが一緒に考案しましたの。あなたもそのペンダントもよくお似合いですわ。わたくしほどではないけれど!」
突然早足になって先に行ってしまったカタリナの耳がほんのり赤く染まっているのが見えた。
カタリナのツンデレは健在のようだ。
くすくす笑いながらその後ろ姿を追ったのだった。
入学式が滞りなく終わり、自邸へと帰る馬車の中でのこと。
わたしは、さいはめルートを阻止できたことに大いに満足していた。
カタリナがヒロインかどうかなんて知ったこっちゃない。
ハルアカのガチプレーヤーとしての知識を駆使してドリスの破滅フラグを折りまくっていけばいいだけだ。
それはいいとして、正面に腰かけるオスカーの様子がどうもおかしい。
こちらをチラチラうかがいながら何か言いたそうな顔をしている。
破滅フラグを回避できたことで、口元をだらしなく緩ませていたかもしれない。
それをどう注意しようか迷っているんだろうか。
「オスカー? どうかした?」
いつまでも言わないから、すまし顔でこっちから促してみた。
ようやくオスカーが、神妙な顔で口を開いた。
「ドリスお嬢様は……私との婚約の話を断ったそうですね」
なんだ、そのことか。
もしかして不満なの? あんなに嫌がっていたくせに!
「そうよ。前も言ったけど、わたしを大切にしてくれる人と結婚したいの。オスカーは、わたしのことなんて好きじゃないでしょう?」
どうぞカタリナと結婚してちょうだい。
公爵家の婿養子になれば、お金に困ることはないはずだわ。
「パパがオスカーを跡継ぎにって言ったことは知ってるけど、気にすることなんてないのよ? わたしが別の婿を探すから、どうぞご心配なく」
この話はこれでおしまいよ! という意思表示として、プイッ横を向き窓の外の景色を眺めた。
視界の端で、オスカーがそっと目を伏せるのが見えた。