破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます
 わたしのそんな余裕の態度につられてか、3人のヒロインたちもこの手の嫌がらせに慣れていく様子がまたおもしろい。
 
 アデルのカバンの中に生きたトカゲが入っていたこともある。
「かわいいっ! 飼っていいか寄宿舎の寮母さんに聞かないと!」
 なぜか嫌がらせを受けたはずのアデルが歓喜していたけれど。
 
 しかもそのトカゲ用の生餌探しのために小さな蜘蛛やバッタを生け捕りするのがわたしたちの放課後の日課となったため、最初は虫におっかなびっくりだったカタリナにも虫への耐性がついてしまった。
 ステータス的には「根性」に該当するのだろうか。

 またある日は、植木鉢が落下してくるという嫌がらせも受けた。
 ハルアカでも同じ嫌がらせをドリスが取り巻きをけしかけてやらせている場面がある。
 間一髪ヒロインの目の前に落ちて割れるわけだが、もしも植木鉢が頭に直撃したらどうなるんだろうか。
 上階から植木鉢を意図的に落下させるのは、もはや殺人未遂だと思う。

 4人で連れ立って中庭を歩いていた時「あぶないっ!」と上から声がした。
 仰ぎ見れば、茶色い物体がこちらへ向かって真っすぐ落ちてくるのが見えた。
 わたしは咄嗟に飛びのいたけれど、リリカはその場に立ちすくみ、かろうじて両手で抱えるように頭を守った。

「――――!!」 
 
 植木鉢がリリカに直撃する寸前、素早い身のこなしでアデルの上段回し蹴りがきまった。
 少し離れた位置でガシャンと植木鉢が割れた。
 陶器製で土もしっかり入った植木鉢だ。相当な重さだったにちがいない。
 もしもリリカに直撃していたらどうなっていたか……。
 
「足は大丈夫? ドラール家の侍医を呼びますわ!」
 カタリナが青ざめた顔でアデルに駆け寄った。
 重い植木鉢を蹴飛ばしたのだから、アデルの足も無事ではないかもしれない。

 しかしアデルは涼しい顔で笑った。
「平気です。鍛えていますから!」

 カッコいい!
 アデル、あなたカッコよすぎるわっ!

 その日からというもの、リリカは今度は上段回し蹴りの練習をしはじめた。
「次はわたしがみんなを守るからねっ!」
 
 一生懸命さは買おう。
 でも――。
 
「無理ですわ。足がアデルさんの腰の位置までしか上がっていませんわ」
「うわーん。カタリナちゃん、ひどーい!」
 
 いつものやり取りに、アデルと顔を見合わせて苦笑する。
 カッコいいアデルへのご褒美として、そろそろオスカーと引き合わせようか。

 わたしはお茶会を開く決意をした。
 
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