破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます
 前世でのわたしは日本で暮らすゲーム好きな女子大生だった。
 特にハルアカには、ドはまりしていた。
 絵を描くことも好きで、ハルアカのキャラクターを描いたファンアートをSNSに熱心に掲載していた。
 それがハルアカファンたちの目に留まり、誰と誰のあの場面を描いてほしいというリクエストをもらえば喜んで快諾した。もちろん無償でだ。
 睡眠時間を削って夢中になって描いた記憶がよみがえる。

 そのことはよく覚えているのに、自分がどのキャラの絵を好んで描いていたのか……どういう訳か霞がかかったようにぼんやりしていてイマイチ思い出せない。

 前世での最後の記憶は、ハルアカの3周目を終えた直後のこと。
 3周目は難易度の高いキャラをヒロインに据えたため、かなり苦労して時間もうんとかけて、どうにかオスカーと結ばれるハッピーエンドを迎えたのだ。
 それなのに、大きな達成感や喜びに浸るには至らなかった。
 その理由は――。

『どうしても隠しルートを見つけられなかった!』
『もしも見つけていたら――――が幸せになっていたかもしれないのに』
『なんで――――のルートがないの!?』
 頭を掻きむしりながら、そんなことを思った。
 ハッピーエンドだったにもかかわらず、なにか不満があったらしい。
 そして、気もそぞろなまま自宅の2階の部屋から1階へ下りようとして足を踏み外した。
 落ち方が悪かったようで、最後に聞いたのは首のあたりからゴキッと響いた骨の折れる音。
 視界が暗転して……たぶんわたしは死んだのだ。

 それがどうなって、いまドリスとしてこの世界にいるのか。
 はっきり覚えていることもあれば、3回目のハッピーエンドを迎えた直後に抱えていた不満のように、断片的にしか思い出せないこともある。
 最後に気にかけていたことが、悪役令嬢ドリスに転生したことと関係があるんだろうか。
 
 ドリスが14歳のいま、前世を思い出したことも不可解だ。
 ゲームのスタート地点は貴族学校の入学式で、ドリスとヒロインが16歳の時点なのだから。
 
 貴族学校の入学式は、ドリスの付き添いで来ていたオスカーとヒロインが出会う大事なイベントだ。
 オスカーの精悍な顔立ちやドリスを気遣う紳士的な様子を見て、ヒロインは彼に一目惚れしてしまう。
 しかしその後、彼がドリスと婚約していることを知り一旦は諦めようとする。
 それでも抑えようとすればするほど思いが募るという苦悩を抱えるのだが、それをドリスに見透かされてイジメのターゲットとなる。
 これがゲーム序盤のシナリオだ。
 
 ハルアカを3周したガチプレーヤーであるわたしは、この先なにが起こるのか、ドリスがどんな目に遭うのかを熟知している。
 つまり、この世界の未来を知っている。
 
「だったらシナリオを無理やり捻じ曲げてでも生き残ってやろうじゃないの! 破滅フラグ? どんと来いだわ!」
 わたしは拳を強く握りしめてそう誓った。
 
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