破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます
貴族学校の進級試験
貴族学校入学からあっというまに1年が過ぎようとしている。
わたしと3人のヒロインたちの仲は非常に良好で、ここまで楽しい学生生活を送ってきた。
たいていの嫌がらせに動じなくなった我々は、「根性」パラメーターがすでにMAXになっているのではなかろうか。
問題は、彼女たちとオスカーの仲が一向に進展の兆しを見せないことだろう。
しかし今はその悩みはひとまず置いて、試験勉強に励まなくてはならない。
進級試験が差し迫っているのだ。
「そのおつむの中には一体何が詰まってますの?」
「えーん、カタリナちゃんがいじめるうぅぅぅ」
わたしたちは4人そろって毎日放課後に試験勉強をしている。
一番後れを取っているのはもちろんリリカだ。
仕方ない。リリカの「賢さ」のパラメーターが爆上がりするのは聖女として覚醒してからなのだから。
しかしそんな設定など知る由もないカタリナは、憎まれ口を叩きながらもリリカがどうにか理解できるようにと必死に問題を噛み砕いて説明している。
平民暮らしの長かったリリカとは違い、カタリナは公爵令嬢として生まれ、幼い頃から英才教育を受けている。
本来ならばカタリナは友人たちと一緒に勉強する必要などないほど優秀だ。
つまり、この勉強会は指導役としてのボランティア参加のようなものだ。
カタリナってほんと、世話焼きよねえ。
思わず口元が緩んでしまう。
一方アデルはといえば、あくびを噛み殺しながら問題と格闘している。
試験前でも毎朝欠かさずに続けている剣稽古と試験勉強の両立で少々お疲れ気味なのだろう。
まさかあのお茶会での、わたしの「剣のお稽古はしているのか」という発言が発端でアデルを朝稽古の苦行に追い込むことになろうとは思いもしていなかった。
しかし努力家でストイックなアデルは、この状況を「人生で一番今が充実している!」と感じているようだ。
せめて試験勉強の一助になればと思い、マイヤ夫人からもらった課題を見せることにした。
家庭教師としてお世話になったマイヤ夫人との契約は、貴族学校入学をもって満了となった。
彼女の指導は厳しさの中にも優しさが溢れ、「しつけ」や「教育」と称して暴力を振るうことは決してなかった。
わたしの尊厳を傷つけるような暴言を吐くこともなく、常に節度と気品をもって接してくれたことにとても感謝している。
「初めてお会いした時には、文字の読み書きすらできないあなたをたった2年でどうすればいいのかと途方に暮れていましたが、よく頑張りました。あなたは私の予想を遥かに上回る優秀な生徒です。これからも向上心を持って勉学に励んでください。ドリスさんが聡明で素敵なレディに成長する姿を今後も陰ながら応援していますね」
お別れの日に優しい笑顔でそう言われた時には涙が溢れて止まらなかった。
しかしその直後に、貴族学校のカリキュラムに即した課題をまとめて渡しておくと言われ、山積みの書類を見せられた途端に涙は引っ込んだけれど。
マイヤ夫人から入学祝としてもらったその課題が、今こうして役立っているというわけだ。
カタリナいわく「お金を出してでも手に入れたいほど、よくまとまっている」というマイヤ夫人の課題集は、確かに要点やつまずきやすいポイントをしっかり押さえている優れものだと思う。
それと同時に、わたしが入学前にマイヤ夫人に教えてもらっていた勉強の内容が、すでに貴族学校の1年生のカリキュラムを大きく飛び越えてかなり先まで進んだものだったということもわかった。
わたしの飛躍的な学力向上はもちろん前世での経験が活きているわけだが、たったの2年で貴族学校の上級生レベルの問題をスラスラ解けるところまで導いてくれたマイヤ夫人の手腕には舌を巻く。
家庭教師は誰だったのかと聞かれてマイヤ夫人の名前を出すと、カタリナが目を丸くした。
「マイヤ夫人って、あのカリスマ家庭教師の?」
わたしはまったく知らなかったけれど、マイヤ夫人は貴族たちからの信頼度が非常に高く、予約で数年待ちの状態なんだとか。
ということは、ミヒャエルは一体どんな手を使ってそこにゴリ押ししたんだろうか。
マイヤ夫人はお金を積まれたらなびくような人ではない。
娘への溢れんばかりの愛情と、2年で無学の少女を立派な伯爵令嬢に育て上げてみないかと誘うことで、彼女の「家庭教師魂」に火をつけたのかもしれない。
ハルアカの悪役令嬢ドリスは、気に入らないマイヤ夫人を上手く追い出したと悦に入っていたようだが、本当はマイヤ夫人に見限られたと表現するのが正解だろう。
最後に「優秀な生徒」とまで言ってもらえたわたしは幸せだ。
そんなわけで、わたしもカタリナと同様あまり必死に勉強しなくてもいいと思われる安全圏にいる。
リリカをどうすればいいのか。
このままでは本当に進級が危ぶまれるレベルだ。
カタリナとわたしは頭を悩ませていた。
わたしと3人のヒロインたちの仲は非常に良好で、ここまで楽しい学生生活を送ってきた。
たいていの嫌がらせに動じなくなった我々は、「根性」パラメーターがすでにMAXになっているのではなかろうか。
問題は、彼女たちとオスカーの仲が一向に進展の兆しを見せないことだろう。
しかし今はその悩みはひとまず置いて、試験勉強に励まなくてはならない。
進級試験が差し迫っているのだ。
「そのおつむの中には一体何が詰まってますの?」
「えーん、カタリナちゃんがいじめるうぅぅぅ」
わたしたちは4人そろって毎日放課後に試験勉強をしている。
一番後れを取っているのはもちろんリリカだ。
仕方ない。リリカの「賢さ」のパラメーターが爆上がりするのは聖女として覚醒してからなのだから。
しかしそんな設定など知る由もないカタリナは、憎まれ口を叩きながらもリリカがどうにか理解できるようにと必死に問題を噛み砕いて説明している。
平民暮らしの長かったリリカとは違い、カタリナは公爵令嬢として生まれ、幼い頃から英才教育を受けている。
本来ならばカタリナは友人たちと一緒に勉強する必要などないほど優秀だ。
つまり、この勉強会は指導役としてのボランティア参加のようなものだ。
カタリナってほんと、世話焼きよねえ。
思わず口元が緩んでしまう。
一方アデルはといえば、あくびを噛み殺しながら問題と格闘している。
試験前でも毎朝欠かさずに続けている剣稽古と試験勉強の両立で少々お疲れ気味なのだろう。
まさかあのお茶会での、わたしの「剣のお稽古はしているのか」という発言が発端でアデルを朝稽古の苦行に追い込むことになろうとは思いもしていなかった。
しかし努力家でストイックなアデルは、この状況を「人生で一番今が充実している!」と感じているようだ。
せめて試験勉強の一助になればと思い、マイヤ夫人からもらった課題を見せることにした。
家庭教師としてお世話になったマイヤ夫人との契約は、貴族学校入学をもって満了となった。
彼女の指導は厳しさの中にも優しさが溢れ、「しつけ」や「教育」と称して暴力を振るうことは決してなかった。
わたしの尊厳を傷つけるような暴言を吐くこともなく、常に節度と気品をもって接してくれたことにとても感謝している。
「初めてお会いした時には、文字の読み書きすらできないあなたをたった2年でどうすればいいのかと途方に暮れていましたが、よく頑張りました。あなたは私の予想を遥かに上回る優秀な生徒です。これからも向上心を持って勉学に励んでください。ドリスさんが聡明で素敵なレディに成長する姿を今後も陰ながら応援していますね」
お別れの日に優しい笑顔でそう言われた時には涙が溢れて止まらなかった。
しかしその直後に、貴族学校のカリキュラムに即した課題をまとめて渡しておくと言われ、山積みの書類を見せられた途端に涙は引っ込んだけれど。
マイヤ夫人から入学祝としてもらったその課題が、今こうして役立っているというわけだ。
カタリナいわく「お金を出してでも手に入れたいほど、よくまとまっている」というマイヤ夫人の課題集は、確かに要点やつまずきやすいポイントをしっかり押さえている優れものだと思う。
それと同時に、わたしが入学前にマイヤ夫人に教えてもらっていた勉強の内容が、すでに貴族学校の1年生のカリキュラムを大きく飛び越えてかなり先まで進んだものだったということもわかった。
わたしの飛躍的な学力向上はもちろん前世での経験が活きているわけだが、たったの2年で貴族学校の上級生レベルの問題をスラスラ解けるところまで導いてくれたマイヤ夫人の手腕には舌を巻く。
家庭教師は誰だったのかと聞かれてマイヤ夫人の名前を出すと、カタリナが目を丸くした。
「マイヤ夫人って、あのカリスマ家庭教師の?」
わたしはまったく知らなかったけれど、マイヤ夫人は貴族たちからの信頼度が非常に高く、予約で数年待ちの状態なんだとか。
ということは、ミヒャエルは一体どんな手を使ってそこにゴリ押ししたんだろうか。
マイヤ夫人はお金を積まれたらなびくような人ではない。
娘への溢れんばかりの愛情と、2年で無学の少女を立派な伯爵令嬢に育て上げてみないかと誘うことで、彼女の「家庭教師魂」に火をつけたのかもしれない。
ハルアカの悪役令嬢ドリスは、気に入らないマイヤ夫人を上手く追い出したと悦に入っていたようだが、本当はマイヤ夫人に見限られたと表現するのが正解だろう。
最後に「優秀な生徒」とまで言ってもらえたわたしは幸せだ。
そんなわけで、わたしもカタリナと同様あまり必死に勉強しなくてもいいと思われる安全圏にいる。
リリカをどうすればいいのか。
このままでは本当に進級が危ぶまれるレベルだ。
カタリナとわたしは頭を悩ませていた。