破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます
わたしと3人のヒロインたちは、学年がひとつ上がってもまた同じクラスになった。
くだらない嫌がらせは続いているけれど、頭上から何が落下してこようとアデルが人間離れした察知能力と見事な身のこなしで守ってくれる。
学生の頃からこれだけの能力があれば、戦場でも間違いなくオスカーと共に戦っていけるだろう。
進級試験でケチをつけてきたミシェルも相変わらずあれこれつっかかってくる。
しかしこれも、カタリナが毎回舌戦を制する形で撃退してくれる。
きっとその頭脳でオスカーを支えてくれるだろう。
「叔母さまにルーン岬の投資をやめるように言ったんだけど、信じてもらえなかったの!」
リリカがかわいらしく頬を膨らませる。
「そうでしょうね。だってリリカさんの言うことは信憑性が低そうですものね」
カタリナが冷静に答えた。
「でもね! カタリナちゃんとドリスちゃんがそう言うならって、増資はやめることにしたって!」
「それはよかったわ」
ルーン岬リゾートが破綻して出資金を回収できなくても、最低限の損失で済むだろう。
「よくないでしょ、ドリスちゃん! ふたりの言うことなら信じるけど、わたしの言うことは信じられないってことだよ!?」
リリカがますます頬を膨らませる様子が笑いを誘う。
天真爛漫な聖女様に守ってもらえたら、オスカーは安泰だ。
それなのに!
肝心のオスカーは、わたしへの溺愛モードに入ってしまったようだ。
おかしい。
オスカーの溺愛モードは、もっとずっと先のはずなのに!
孤児院への慰問では、まるでルークに見せつけるかのようにわたしの肩に腕を回してきた。
ルークもすぐに、わたしとオスカーの関係に変化があったことに気付いたようだ。
「なんだよ。執事の兄ちゃんが相手なんて、かないっこねーじゃん」
「ルーク! 簡単にあきらめないでちょうだい!」
思わず言うと、ルークはニッと笑った。
「もちろん。エーレンベルク伯爵家で雇ってもらう夢は、あきらめねーからな!」
待って! あなたの目的はそっちだったの!?
いささかショックを受けた。
下校の迎えの馬車では、半日離れていただけなのに「早くドリィに会いたかった」と言ってオスカーがくっついてくる。
「ねえ、オスカーはわたしのこと嫌っていたはずよね?」
しばし動きを止めたオスカーが、小さく頷いた。
「……そうか、思い出した」
そうよ! 思い出してくれた?
「これがアルトの言っていた『高度なおねだり』というやつか」
ええっ!?
オスカーがわたしの手を取り、形のいい唇を寄せる。
「ドリィのことがどうしようもなく好きだ」
顔が火照るのを止められないまま、なんてことだと思った。
どうしようもなく好きなんだ――このセリフは、ハルアカでも出てくる。
恋愛に奥手なオスカーは、ヒロインに想いを寄せながらもその気持ちをどう扱えばいいかわからず持て余して苦悩する。
それを笑い飛ばしながらもアドバイスをするのが、相棒のアルトだ。
つまりオスカーはアルトに、わたしのことで何か相談していたってことだろう。
女の子が「どうせわたしのこと嫌いなんでしょ!」と言えば、それは好きと言ってほしい「高度なおねだり」だから、きちんと伝えろとでも指南されたのだろうか。
なんと迷惑な!
やっぱりアルト・ハイゼンは、わたしにとって厄介な存在だ。
しかも、これはハルアカではもっと先の話のはずだ。
オスカーの溺愛モードが前倒しになったことで、そのセリフまで前倒しになったのだとしたら……。
かなりシナリオが崩れてきていることになる。それを喜ぶべきか憂うべきすらわからない。
「早すぎるわ」
思わず漏らす。まだちっともクライマックスではないのに。
するとオスカーがハッとしたように体を離した。
「すまない。ドリィはまだ16歳だというのに……」
いや、そういうことじゃなく……。
「大丈夫。責任はとる」
だから、そうじゃないってば!
くだらない嫌がらせは続いているけれど、頭上から何が落下してこようとアデルが人間離れした察知能力と見事な身のこなしで守ってくれる。
学生の頃からこれだけの能力があれば、戦場でも間違いなくオスカーと共に戦っていけるだろう。
進級試験でケチをつけてきたミシェルも相変わらずあれこれつっかかってくる。
しかしこれも、カタリナが毎回舌戦を制する形で撃退してくれる。
きっとその頭脳でオスカーを支えてくれるだろう。
「叔母さまにルーン岬の投資をやめるように言ったんだけど、信じてもらえなかったの!」
リリカがかわいらしく頬を膨らませる。
「そうでしょうね。だってリリカさんの言うことは信憑性が低そうですものね」
カタリナが冷静に答えた。
「でもね! カタリナちゃんとドリスちゃんがそう言うならって、増資はやめることにしたって!」
「それはよかったわ」
ルーン岬リゾートが破綻して出資金を回収できなくても、最低限の損失で済むだろう。
「よくないでしょ、ドリスちゃん! ふたりの言うことなら信じるけど、わたしの言うことは信じられないってことだよ!?」
リリカがますます頬を膨らませる様子が笑いを誘う。
天真爛漫な聖女様に守ってもらえたら、オスカーは安泰だ。
それなのに!
肝心のオスカーは、わたしへの溺愛モードに入ってしまったようだ。
おかしい。
オスカーの溺愛モードは、もっとずっと先のはずなのに!
孤児院への慰問では、まるでルークに見せつけるかのようにわたしの肩に腕を回してきた。
ルークもすぐに、わたしとオスカーの関係に変化があったことに気付いたようだ。
「なんだよ。執事の兄ちゃんが相手なんて、かないっこねーじゃん」
「ルーク! 簡単にあきらめないでちょうだい!」
思わず言うと、ルークはニッと笑った。
「もちろん。エーレンベルク伯爵家で雇ってもらう夢は、あきらめねーからな!」
待って! あなたの目的はそっちだったの!?
いささかショックを受けた。
下校の迎えの馬車では、半日離れていただけなのに「早くドリィに会いたかった」と言ってオスカーがくっついてくる。
「ねえ、オスカーはわたしのこと嫌っていたはずよね?」
しばし動きを止めたオスカーが、小さく頷いた。
「……そうか、思い出した」
そうよ! 思い出してくれた?
「これがアルトの言っていた『高度なおねだり』というやつか」
ええっ!?
オスカーがわたしの手を取り、形のいい唇を寄せる。
「ドリィのことがどうしようもなく好きだ」
顔が火照るのを止められないまま、なんてことだと思った。
どうしようもなく好きなんだ――このセリフは、ハルアカでも出てくる。
恋愛に奥手なオスカーは、ヒロインに想いを寄せながらもその気持ちをどう扱えばいいかわからず持て余して苦悩する。
それを笑い飛ばしながらもアドバイスをするのが、相棒のアルトだ。
つまりオスカーはアルトに、わたしのことで何か相談していたってことだろう。
女の子が「どうせわたしのこと嫌いなんでしょ!」と言えば、それは好きと言ってほしい「高度なおねだり」だから、きちんと伝えろとでも指南されたのだろうか。
なんと迷惑な!
やっぱりアルト・ハイゼンは、わたしにとって厄介な存在だ。
しかも、これはハルアカではもっと先の話のはずだ。
オスカーの溺愛モードが前倒しになったことで、そのセリフまで前倒しになったのだとしたら……。
かなりシナリオが崩れてきていることになる。それを喜ぶべきか憂うべきすらわからない。
「早すぎるわ」
思わず漏らす。まだちっともクライマックスではないのに。
するとオスカーがハッとしたように体を離した。
「すまない。ドリィはまだ16歳だというのに……」
いや、そういうことじゃなく……。
「大丈夫。責任はとる」
だから、そうじゃないってば!