破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます
 呪い……ですって!?

「誰かがパパを呪っているってこと……?」
 なんで!?
 だってミヒャエルは、オジール王国の英雄で、女性関係も含めてトラブルのないクリーンな人で、あんなにもお人よしなのに、誰が彼のことを恨むっていうの?

 しかしオスカーはわたしの考えとは違うことを言った。
「バルノの国民からは恨まれている可能性が高いな」

 ――――! その通りだ。
 バルノ軍との戦争の勝利は、ミヒャエルの活躍が大きかったと聞いている。
 この国では英雄でも、敵国からしたらどうだろうか……。
 そこまで考えて、ふるりと体が震えた。

「でも、人を呪うって簡単にできることなの?」
 それができたら、戦争を起こす前に敵国の将軍や国王を呪い殺せばいいではないか。

 アルトが小さく頷いた。
「呪いとか呪術自体、今はもう廃れている。必ず期待した結果が得られるわけではないものだからね」
 昔ならいざ知らず今はもっと明確な力、つまり武力によって敵を討つのが主流だろう。

 忘れ去られた古の術。
 だから、誰も呪いのせいで体調がすぐれないとは気付かないってことね?
 でもそれではなんとも眉唾物の話だ。
 
「ただ……」
 アルトが声をひそめて続ける。
「大昔に作られて現存する呪術アイテムの中には、どうやら期待した効果が得られるものもあるらしい」
 
 並んでソファに座るわたしとオスカーは、同時にひゅっと息を呑んだ。

「誰かがそれを使っている……可能性があるってことね?」
 そう尋ねると、アルトは無言で頷いた。
 
 アルトもわたしたちにこの調査報告をするまで何度も迷っただろう。
 呪いの症状と似ている。効果のある呪いアイテムが存在する――それだけでミヒャエルのことと結びつけてもいいのかと。
 アルトがあらゆる可能性を一旦列挙してから調べて考えて、最後に残ったのが「呪い」なのだとしたら、わたしもそれを受け止めて、ではこれからどうすればいいのかを考えるべきだろう。

「呪いって、どう解けばいいんだっけ?」
 隣のオスカーを見る。
「そういうのは、よく知らないな」
 オスカーが首をひねりながらアルトに視線を送った。

「仮に呪いなのだとして、それをどう解くかも調べてみたんだけど、これが厄介なんだよね」
 アルトの説明によれば、呪いは神殿の神官でも解くことは不可能で、誰が呪いをかけているのかを突き止めて呪いアイテムを破壊しないといけないらしい。

 いや、それは無理でしょ。
 バルノ国民に恨まれていて、その誰かから呪いを受けているのだとして、犯人を探し出すには途方もない労力と時間がかかるだろう。
 ミヒャエルの命がそこまでもたない。

「それ以外に方法はないのか?」
 オスカーがすがるようにアルトに尋ねる。
「まず無理だとは思うんだけど……」
 アルトが躊躇しながらも、もうひとつの可能性を教えてくれた。
「呪い返しをすればいい。でもそれを行うには、相手の呪いアイテムと同等か、より強いアイテムが必要だから難しいと思う」

 より強い呪いアイテムなんて……ん? 待って。
 わたし……。

 いきなり立ち上がったわたしを、オスカーとアルトがぎょっとして見上げている。

「わたし持ってるわ! 呪いアイテム!」

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