破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます
入学式の日に、講堂の裏にいた怪しい商人から買った呪いアイテムを持っているではないか!
さいはめルートを回避するために3つとも買い占めたあれだ。
あのアイテムを発動させれば必ず悪役令嬢ドリスが退場してシナリオがスキップするようになっている。ということはまさに、必ず効果が得られる呪いアイテムといえるだろう。
「ちょっと待ってて!」
わたしは応接室を飛び出すと、自室に急行した。
麻袋に入れて入学式の日に持ち帰った後、クローゼットにしまったままになっているはずだ。
クローゼットの扉を開け、奥に置かれている麻袋を取り出した。
ハンナをはじめ使用人たちには、クローゼットに置いてあるものを勝手に触らないように言い渡してあった。
中を確認すると、あの時のまま藁人形と壺と手鏡が入っている。
麻袋をもってオスカーたちのもとへ戻った。
「これよ!」
ふんすと胸を張って、呪いアイテムをローテーブルに並べる。
オスカーとアルトは戸惑った様子で顔を見合わせ、呪いアイテムに視線を落としを繰り返している。
「ドリィ。これは……どこで?」
しまった。喜びすぎて、そこまで考えていなかったわ!
「ええっと、怪しい商人から買って……?」
嘘は言ってないわよ。
「…………」
オスカーとアルトが黙ってしまった。
まったく信じていない様子だ。ただのがらくただと思われているのだろう。
「信じてくれなくてもいいから、試してみましょうよ。なにも打つ手がないよりいいじゃない」
強く言うと、ふたりが曖昧に頷いた。
「アルトお兄様。呪い返しをするには、これをどうすればいいの?」
「呪いを受けている人のそばに置けばいいだけだよ」
「わかったわ!」
手に取って確かめようとしたのか、オスカーが壺に向かって手を伸ばす。
「待って! 触らないで!」
慌ててその手を掴んで止めた。
「呪いが発動したら困るからやめてちょうだい」
ハルアカではこの呪いアイテムで呪えるのは、ドリス・エーレンベルク限定だった。
ドリスの顔を思い浮かべながら名前を唱えることが発動条件。
手鏡はドリスを映す、藁人形と壺はドリスの髪の毛や爪などを中に入れればさらに呪いの効果が高まるようにできていると思う。
そういう手順を踏まないといけないから触れただけで発動することはないけれど、用心するに越したことはない。
うっかりそんなことになれば、わたしが呪われて消えてしまう。
呪いアイテムを再び麻袋に戻し、ミヒャエルの寝室へ向かった。
ミヒャエルはまだ眠っていた。
ベッドの横にあるサイドボードに、呪いアイテム3つとも並べて置く。
呪いの対象者がドリスに限定されているアイテムだから、ミヒャエルを呪っているアイテムよりも弱いかもしれない。
でも3つあれば大丈夫じゃないかしら。
どうせ使い道のなかったアイテムだ。出し惜しみせずにすべて使い切ろう。
「これでよし!」
そして無言のまま見守っていたオスカー、アルト、ハンナを振り返り、決して触れないよう重ねて念押しした。
その夜。
ミヒャエルの看病をするわたしからオスカーも離れようとせず、ふたりで付き添うことになった。
オスカーもなんとなくこのアイテムのことが気になったのだろう。
深夜になって、わたしもオスカーも少しウトウトしていた。
「うっ……」
ミヒャエルのうめき声が聞こえてハッと目が覚める。
「パパ? 大丈夫?」
立ち上がってミヒャエルの顔を覗き込もうとした時、横からピシッとヒビが入るような音が聞こえた。
「ドリィ!」
オスカーがわたしを抱きしめるように庇った直後に、バリン!と大きな音が響く。
明かりをつけて確認すると、手鏡と壺が割れその破片が藁人形に突き刺さっているではないか。
――――!!
呪い返しが成功したのかもしれない。
震える指先で破片を触ろうとすると、オスカーに止められた。
オスカーもようやく信じてくれたのか、青ざめた顔をしている。
「触らないほうがいい」
息を呑んで手を止める。
「そうね……」
「朝になったら神官を呼ぼう」
震えるわたしを落ち着かせるように背中をなでてくれるオスカーに、無言で頷いた。
幸いなことにミヒャエルは規則的な呼吸を繰り返しながら眠っている。
苦しげな様子がないことにホッとした。
しかし呪いを目の当たりにしたわたしたちは、ほとんど言葉を交わさないまま朝を待った。
さいはめルートを回避するために3つとも買い占めたあれだ。
あのアイテムを発動させれば必ず悪役令嬢ドリスが退場してシナリオがスキップするようになっている。ということはまさに、必ず効果が得られる呪いアイテムといえるだろう。
「ちょっと待ってて!」
わたしは応接室を飛び出すと、自室に急行した。
麻袋に入れて入学式の日に持ち帰った後、クローゼットにしまったままになっているはずだ。
クローゼットの扉を開け、奥に置かれている麻袋を取り出した。
ハンナをはじめ使用人たちには、クローゼットに置いてあるものを勝手に触らないように言い渡してあった。
中を確認すると、あの時のまま藁人形と壺と手鏡が入っている。
麻袋をもってオスカーたちのもとへ戻った。
「これよ!」
ふんすと胸を張って、呪いアイテムをローテーブルに並べる。
オスカーとアルトは戸惑った様子で顔を見合わせ、呪いアイテムに視線を落としを繰り返している。
「ドリィ。これは……どこで?」
しまった。喜びすぎて、そこまで考えていなかったわ!
「ええっと、怪しい商人から買って……?」
嘘は言ってないわよ。
「…………」
オスカーとアルトが黙ってしまった。
まったく信じていない様子だ。ただのがらくただと思われているのだろう。
「信じてくれなくてもいいから、試してみましょうよ。なにも打つ手がないよりいいじゃない」
強く言うと、ふたりが曖昧に頷いた。
「アルトお兄様。呪い返しをするには、これをどうすればいいの?」
「呪いを受けている人のそばに置けばいいだけだよ」
「わかったわ!」
手に取って確かめようとしたのか、オスカーが壺に向かって手を伸ばす。
「待って! 触らないで!」
慌ててその手を掴んで止めた。
「呪いが発動したら困るからやめてちょうだい」
ハルアカではこの呪いアイテムで呪えるのは、ドリス・エーレンベルク限定だった。
ドリスの顔を思い浮かべながら名前を唱えることが発動条件。
手鏡はドリスを映す、藁人形と壺はドリスの髪の毛や爪などを中に入れればさらに呪いの効果が高まるようにできていると思う。
そういう手順を踏まないといけないから触れただけで発動することはないけれど、用心するに越したことはない。
うっかりそんなことになれば、わたしが呪われて消えてしまう。
呪いアイテムを再び麻袋に戻し、ミヒャエルの寝室へ向かった。
ミヒャエルはまだ眠っていた。
ベッドの横にあるサイドボードに、呪いアイテム3つとも並べて置く。
呪いの対象者がドリスに限定されているアイテムだから、ミヒャエルを呪っているアイテムよりも弱いかもしれない。
でも3つあれば大丈夫じゃないかしら。
どうせ使い道のなかったアイテムだ。出し惜しみせずにすべて使い切ろう。
「これでよし!」
そして無言のまま見守っていたオスカー、アルト、ハンナを振り返り、決して触れないよう重ねて念押しした。
その夜。
ミヒャエルの看病をするわたしからオスカーも離れようとせず、ふたりで付き添うことになった。
オスカーもなんとなくこのアイテムのことが気になったのだろう。
深夜になって、わたしもオスカーも少しウトウトしていた。
「うっ……」
ミヒャエルのうめき声が聞こえてハッと目が覚める。
「パパ? 大丈夫?」
立ち上がってミヒャエルの顔を覗き込もうとした時、横からピシッとヒビが入るような音が聞こえた。
「ドリィ!」
オスカーがわたしを抱きしめるように庇った直後に、バリン!と大きな音が響く。
明かりをつけて確認すると、手鏡と壺が割れその破片が藁人形に突き刺さっているではないか。
――――!!
呪い返しが成功したのかもしれない。
震える指先で破片を触ろうとすると、オスカーに止められた。
オスカーもようやく信じてくれたのか、青ざめた顔をしている。
「触らないほうがいい」
息を呑んで手を止める。
「そうね……」
「朝になったら神官を呼ぼう」
震えるわたしを落ち着かせるように背中をなでてくれるオスカーに、無言で頷いた。
幸いなことにミヒャエルは規則的な呼吸を繰り返しながら眠っている。
苦しげな様子がないことにホッとした。
しかし呪いを目の当たりにしたわたしたちは、ほとんど言葉を交わさないまま朝を待った。