破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます
 机の引き出しの中で、純金のブレスレットや大きな宝石がはめこまれた指輪や細工をこらしたネックレスが輝いている。
 勉強道具ではなくこんなところに高価な貴金属類を、しかも鍵もかけずに適当に放り込んでおくとは。
 
 小さくため息をつこうとしたら、先にオスカーが大きなため息をついた。
「申し訳ございません、一旦廊下でお待ちください」
 そう言って、宝石に目をくぎ付けにしているクラークの背を押して退室を促した。

 扉を閉めて、くるりと振り返ったオスカーの眉間には深いしわが寄っている。
「ねえ、オスカー。いまはまだ若いから大丈夫だけど、そんな怖い顔ばかりしていたらいつか深いしわが取れなくなっちゃうわよ」
 せっかくの美貌が台無しだわ。
 この世界にはボトックス注射なんてないはずだし。

「ドリスお嬢様」
 忠告が聞こえなかったのかそれとも無視したのか、眉間のしわを一層深くしたオスカーがいつもより低い声を響かせる。
「そのような高価な貴金属の収納場所を他人にひけらかすのはおやめください」

「へぇ。自分は他人ではないと思っているの?」
 思わず嫌味を言うと、オスカーが身を固くしたのがわかった。

 だっておかしいじゃない。
 ハルアカの中でも、ただ婚約者ってだけでミヒャエルと血が繋がっているわけでも養子縁組していたわけでもないのに、わたしをこの家から追い出すんだもの。
 この伯爵邸はパパとわたしのものだわ。追い出されるものですか!

「いえ、ただエーレンベルク伯爵家の執事として諫言(かんげん)したまでです」
 言い訳をするオスカーを冷ややかに見つめる。
「あらそう。この宝石は売るわ。そのお金で家具を新調すれば文句はないでしょ、執事さん」

 いったいどんな気まぐれが始まったのか――そんな戸惑いを青灰の目ににじませるオスカーに向かってにっこり笑った。

 家具職人のクラークに、マホガニーの家具一式の見積もりと納期の目安をお願いした。
「ところで、このピンクの家具はどうしようかしら」
「前回の家具一式な中古品として引き取りましたが、こちらは人気の色とは言えませんので……」
 クラークが言葉を濁す。

 わかるわ。悪趣味な色だから中古家具の価値はゼロだと正直に言ってくれてもいいのよ?
 処分となると、薪の代わりぐらいにはなるのかしら。
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