この青く澄んだ世界は希望の酸素で満ちている



「こんなにも素敵で良い世界。
 だから忘れることができている。
 辛くて苦しい現実を。
 『心が呼吸できる世界』(ここ)にいるときだけは」


 確かに。
 神倉さんが言うように。
『心が呼吸できる世界』(ここ)にいる。
 そのときだけは。
 消えている、頭と心の中から。
 辛くて苦しい現実が。
 思える、そのように。


「と言っても、
 今、こうして話してる時点で
 思い出してるということになるけどな」


 神倉さんはそう言って。
 顔を少し上げ。
 見つめた、天井の方を。

 だけど、すぐに元に戻り。


「だけど、こうしてみんなに話をしてる。
 ということは……話すとき、なのかもな。
『心が呼吸できる世界』が見えて
 来るきっかけになったであろう理由を少しだけ」


 神倉さんの瞳は真剣そのもの。


「俺も……話そうかな、そろそろ。
 これは良い機会かもしれねぇな」


 そう言った、那覇も。


「私も……話してみようかな、少しだけ。
 これが何かのきっかけになるかもしれない」


 佐穂さんも。


「僕も……話してみようと思う。
 そうしたら少しだけ何かが変わるかもしれない」


 鈴森くんも。


「…………」


 私は……。

 正直なところ。
 わからなかった、どうしていいのか。


「じゃあ、まず私から話をしてもいいか」


 神倉さんの言葉を聞き。
 那覇と佐穂さんと鈴森くんは。
「うん」
 そう言って頷いた。


< 45 / 198 >

この作品をシェア

pagetop