狂愛〜虎を照らす月〜
そんな風に思いながらメイクをしてれば、

「お嬢。できました」

繁が髪のセットを終えて声をかけてきた。

おお。さすが。

腰まである、長いストレートの髪は綺麗に隠され、ダークブラウンのカールのついたウィッグがきれいに付けられていた。


「ありがとう。もう、下がっていいよ」

「はい。失礼します」

そう言って、繁は脱衣所を後にした。


よくあんなんで、こんな事できるよね?


仕上げに少し自分で整える。

よし。できた。

今日も、目立たず、地味な事務員だ。
誰も、私が濱田組の娘だとは思わないだろう。


廊下に出れば、繁が待っていて、2人で大広間まで向かう。

大広間に行けば、もうすでにみんな着席していた。

「おはよう」

「おはようございます」

男たちの地を這う様な声が一斉にかかる。

これも、いつも通りだ。

「深月、おせぇぞ」

拓磨に怒られる。

「ごめんて」

「それじゃ、食うか。いただきます」

熊みたいなパパが声をかければ、一斉にいただきますをして、ガツガツと食べ始める。
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