桜姫は花と共に散る
『なんかあった?』



上の空をぼーっと眺めながらそっと聞いてきた。



「……何もないよ」



また自分に嘘をついた。笑っていればきっと変に詮索とかしてこないだろう、なんて思っていた。



『何もないならなんでそんな苦しそうに笑うの?』



「……っ、」



僕を見つめる彼女の瞳は真剣そのもので、言葉を失ってしまった。



驚いた。今まで関わってきた人はみんな、上辺の僕しか見てこなかった。女子達は僕が笑えばキャーキャー叫ぶし、男子からは女たらしだのナルシストだの言ってきた。



だけど彼女は "なんで苦しそうに笑うの?" と聞いてきた。



まるで僕の心を見透かすような、まっすぐな瞳で。



この子は僕のことを上辺だけじゃなくて───僕自身を見てくれるんじゃないか、と……。そんな予感がした。



「……き、」



君の名前を教えて、と言おうとしたタイミングでHRが始まる予鈴がなってしまった。



「あ……」



もう、戻らないと……。またあの空間に戻らないと行けないのか…。



そう思うと少し窮屈に感じてしまった。
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