泣き虫の凛ちゃんがヤクザになっていた
15話
あれから一週間が経った。
テレビのニュースでは、あの事件について、暴力団員の男が拳銃で撃ち殺され、容疑者の男が逃亡の末に自殺したことで書類送検となったと報じられていた。
ニュースで知ったことだが、どうやら石井さんは助からなかったそうだ。
あの立体駐車場から出た後、私と凛ちゃんはタトゥースタジオのある雑居ビルの前で、和住さんに会った。
タトゥースタジオはまだ封鎖されていて入れないらしい。
ちなみに、和住さんはあの後、ネットカフェに隠れていたそうだ。
私の顔を見るなり、和住さんは私に抱き着いてきた。
――幸希ちゃーん!無事で良かったよー!俺ぇ、幸希ちゃんにもしものことがあったら、ってほんと心配で心配で……。
ガシッと力強く私を抱きしめる和住さんに対して、私は困惑した。
そして、それと同時に血の気が引いた。
私の後ろには凛ちゃんがいる。この状況を彼に見られているのは、非常にマズいと思った。
すると、凛ちゃんは和住さんを私から引き剝がして、右手で思いっきりアッパーカットを食らわせた。
「ゴンッ」という鈍い音と共に、和住さんは「ぐえっ」と潰れたカエルのような声を上げて、失神した。
しかし、私のことを助けてくれた和住さんが無事だったと分かり、私はホッと胸を撫で下ろした。
和住さんと再会した後、凛ちゃんは「しばらく家で大人しくしとけ」と私に命令した。
正直、殺人事件の現場を目撃したせいで私は心身ともに疲れていた。
そのため、凛ちゃんに言われた通り、一週間ほとんど家に引きこもって休んだ。
その間、凛ちゃんは一日に一回電話で私の様子を確認してきた。電話は毎度数分程度だが、凛ちゃんの声を聞くだけで、心が落ち着いた。
そして、今日、約一週間ぶりに凛ちゃんと会った。
凛ちゃんはいつもの黒のスーツに柄物の紺のワイシャツではなく、グレーのスーツに白無地のワイシャツ姿だった。
「何かいつもと雰囲気違うね」
私の自宅アパートまで来た凛ちゃんの姿を、私はまじまじと見る。
「サラリーマンみたいだろ」
凛ちゃんは得意げに言う。
「うーん、サラリーマンにしては目が怖い」
確かにパッと見はサラリーマン風なのだが、鋭い眼光が隠し切れておらず、明らかにカタギではない。
私の返答を聞いた凛ちゃんは、不服そうに口をへの字に曲げる。
「まあ、いいや。とりあえず乗れ。連れて行きたいところがある」
凛ちゃんはそう言って、私を車に乗せた。
車内で私は「どこに行くの?」と尋ねたが、凛ちゃんは「着いてからのお楽しみ」と言って教えてくれなかった。
ただ一つ言えるのは、凛ちゃんがなぜか上機嫌なことだ。
助手席で窓の外を眺めていると、私はだんだんと見知った風景を走っていることに気づいた。
そして、車がとある場所で停車した。
「降りろ」
私は凛ちゃんに言われるがまま車を降りた。
そこは、――あの弁当屋の前だった。
出入り口のドアガラスから室内が見えるが、以前と違ってカウンターのショーケースに弁当は並べられておらず、空っぽだ。しかし、それ以外は私が働いていた頃と変わっていない。店の看板もそのままだ。
「ここ、私のお店……」
私は店の前で呆然と立ち尽くした。
「でも、ここ、売ったんじゃ……」
私は恐る恐る凛ちゃんに尋ねた。
「ああ、売った。で、俺が買った」
凛ちゃんはあっけらかんと言う。
私は状況がよく呑み込めず、ポカンと口を開けて、凛ちゃんを見つめた。
「……勘違いすんなよ!?この店の経営を俺のシノギにするってわけだから、オーナーは俺だぞ。お前はあくまで雇われ店長だ」
凛ちゃんは顔を赤くして、しどろもどろになる。
私が雇われ店長?それって、つまり――。
「また、ここでお弁当屋さんしてもいいの!?」
私は胸が高鳴る。
「だ、だから、そう言ってるじゃねぇか」
凛ちゃんは照れたようにそっぽを向く。
私は嬉しさのあまり、思わず凛ちゃんに抱き着いた。
「凛ちゃん、ありがとう!大好き!!!」
私は周りの目など気にせず、叫んだ。
「バカッ!?ここ外だぞ!!?」
凛ちゃんは慌てた様子で、私を引き剥がそうとするが、全くその手に力を込めていない。
顔は見えないけれど、声しか聞こえないけれど、凛ちゃんは笑っているような気がした。
テレビのニュースでは、あの事件について、暴力団員の男が拳銃で撃ち殺され、容疑者の男が逃亡の末に自殺したことで書類送検となったと報じられていた。
ニュースで知ったことだが、どうやら石井さんは助からなかったそうだ。
あの立体駐車場から出た後、私と凛ちゃんはタトゥースタジオのある雑居ビルの前で、和住さんに会った。
タトゥースタジオはまだ封鎖されていて入れないらしい。
ちなみに、和住さんはあの後、ネットカフェに隠れていたそうだ。
私の顔を見るなり、和住さんは私に抱き着いてきた。
――幸希ちゃーん!無事で良かったよー!俺ぇ、幸希ちゃんにもしものことがあったら、ってほんと心配で心配で……。
ガシッと力強く私を抱きしめる和住さんに対して、私は困惑した。
そして、それと同時に血の気が引いた。
私の後ろには凛ちゃんがいる。この状況を彼に見られているのは、非常にマズいと思った。
すると、凛ちゃんは和住さんを私から引き剝がして、右手で思いっきりアッパーカットを食らわせた。
「ゴンッ」という鈍い音と共に、和住さんは「ぐえっ」と潰れたカエルのような声を上げて、失神した。
しかし、私のことを助けてくれた和住さんが無事だったと分かり、私はホッと胸を撫で下ろした。
和住さんと再会した後、凛ちゃんは「しばらく家で大人しくしとけ」と私に命令した。
正直、殺人事件の現場を目撃したせいで私は心身ともに疲れていた。
そのため、凛ちゃんに言われた通り、一週間ほとんど家に引きこもって休んだ。
その間、凛ちゃんは一日に一回電話で私の様子を確認してきた。電話は毎度数分程度だが、凛ちゃんの声を聞くだけで、心が落ち着いた。
そして、今日、約一週間ぶりに凛ちゃんと会った。
凛ちゃんはいつもの黒のスーツに柄物の紺のワイシャツではなく、グレーのスーツに白無地のワイシャツ姿だった。
「何かいつもと雰囲気違うね」
私の自宅アパートまで来た凛ちゃんの姿を、私はまじまじと見る。
「サラリーマンみたいだろ」
凛ちゃんは得意げに言う。
「うーん、サラリーマンにしては目が怖い」
確かにパッと見はサラリーマン風なのだが、鋭い眼光が隠し切れておらず、明らかにカタギではない。
私の返答を聞いた凛ちゃんは、不服そうに口をへの字に曲げる。
「まあ、いいや。とりあえず乗れ。連れて行きたいところがある」
凛ちゃんはそう言って、私を車に乗せた。
車内で私は「どこに行くの?」と尋ねたが、凛ちゃんは「着いてからのお楽しみ」と言って教えてくれなかった。
ただ一つ言えるのは、凛ちゃんがなぜか上機嫌なことだ。
助手席で窓の外を眺めていると、私はだんだんと見知った風景を走っていることに気づいた。
そして、車がとある場所で停車した。
「降りろ」
私は凛ちゃんに言われるがまま車を降りた。
そこは、――あの弁当屋の前だった。
出入り口のドアガラスから室内が見えるが、以前と違ってカウンターのショーケースに弁当は並べられておらず、空っぽだ。しかし、それ以外は私が働いていた頃と変わっていない。店の看板もそのままだ。
「ここ、私のお店……」
私は店の前で呆然と立ち尽くした。
「でも、ここ、売ったんじゃ……」
私は恐る恐る凛ちゃんに尋ねた。
「ああ、売った。で、俺が買った」
凛ちゃんはあっけらかんと言う。
私は状況がよく呑み込めず、ポカンと口を開けて、凛ちゃんを見つめた。
「……勘違いすんなよ!?この店の経営を俺のシノギにするってわけだから、オーナーは俺だぞ。お前はあくまで雇われ店長だ」
凛ちゃんは顔を赤くして、しどろもどろになる。
私が雇われ店長?それって、つまり――。
「また、ここでお弁当屋さんしてもいいの!?」
私は胸が高鳴る。
「だ、だから、そう言ってるじゃねぇか」
凛ちゃんは照れたようにそっぽを向く。
私は嬉しさのあまり、思わず凛ちゃんに抱き着いた。
「凛ちゃん、ありがとう!大好き!!!」
私は周りの目など気にせず、叫んだ。
「バカッ!?ここ外だぞ!!?」
凛ちゃんは慌てた様子で、私を引き剥がそうとするが、全くその手に力を込めていない。
顔は見えないけれど、声しか聞こえないけれど、凛ちゃんは笑っているような気がした。