泣き虫の凛ちゃんがヤクザになっていた
3話 前編
翌日、自宅まで迎えに来てくれた凛ちゃんに連れられて、駅から車で二十分以上かかる場所にある雑居ビルへ向かった。
壁はボロボロに錆びており、三階建てのビルには一階と三階の窓に「テナント募集」という貼り紙がデカデカと貼られている。
凛ちゃんが紹介してくれるバイト先というのはタトゥースタジオであり、いわゆる入れ墨を彫ってもらう場所だ。
店主は凛ちゃんの知人らしく、彼曰く「会計すらまともにできないバカだが、腕は良い彫師」らしい。
ビルの二階の店に入ると、雑多な雰囲気の室内で店主らしき男が出迎えてくれた。
しかし、私はその男を見た瞬間、今の凛ちゃんと再会した時以上に私は圧倒されてしまった。
歳は私とさほど変わらなさそうな若い男で、髪は派手な金髪だ。
しかし、それ以上に目を引いたのは、顔じゅうのピアスと、首や腕の大量の入れ墨だった。
耳はもちろん、というか両耳だけでもかなりの数のピアスを付けている。さらには、口、鼻、右眉毛の上にもピアスが光っていた。
そして、何よりも驚いたのは入れ墨のほうだ。首には虎か何かの入れ墨がこちらを睨みつけるように彫られ、捲った袖から覗く腕にも、花やら文字やらの大量の入れ墨が見える。手首より上の部分に関しては、もうほとんど肌色の部分が見えない状態だ。
正直、見た目だけなら凛ちゃんよりも怖い。
私は恐怖心のせいなのか、無意識のうちに凛ちゃんのジャケットの裾を掴んでいた。
「久しぶりー、凛ちゃん。元気だった?」
入れ墨の男は、風貌に似つかわしくないくらい少年のような満面の笑みを見せる。
声も変声期途中の少年のような高めのハスキーな声だった。
「その呼び方止めろって、何度言ったら分かるんだ?」
凛ちゃんは苛立ったように話す。
男は「ごめんごめん」とヘラヘラと笑う。そして、凛ちゃんの後ろに隠れて縮こまっている私に気づくと、「その子がバイトの子?」と尋ねてきた。
「ああ、そうだ」
凛ちゃんがそう言うと、男は少し身を屈めて私に目線を合わせてきた。
「初めましてー、和住真悟って言いますー。よろしくね」
和住さんはニコニコと話す。
「そ、副島幸希です……。よろしくお願いします」
「いやー、助かるよー。半月前までバイトしてた奴がさぁ、薬で捕まっちゃってねぇ。そいつ初犯じゃないから、当分出てこれないだろうからさぁ、困ってたんだよねー」
和住さんはギャハハと笑いながら、とんでもないことをベラベラと喋る。
私は「あはは」と顔を引き攣らせながら無理やり笑った。
この人も薬をやっているんじゃないか?
「そんな緊張しなくても大丈夫だよー。やってもらうことは掃除とレジと受付だから」
屈託のない笑みで明るく接してくれる和住さんを見て、「悪い人ではないのだろうな」と感じた。
しかし、この厳つい見た目と異様な馴れ馴れしさに慣れるのためには、かなり時間が必要そうだ。
壁はボロボロに錆びており、三階建てのビルには一階と三階の窓に「テナント募集」という貼り紙がデカデカと貼られている。
凛ちゃんが紹介してくれるバイト先というのはタトゥースタジオであり、いわゆる入れ墨を彫ってもらう場所だ。
店主は凛ちゃんの知人らしく、彼曰く「会計すらまともにできないバカだが、腕は良い彫師」らしい。
ビルの二階の店に入ると、雑多な雰囲気の室内で店主らしき男が出迎えてくれた。
しかし、私はその男を見た瞬間、今の凛ちゃんと再会した時以上に私は圧倒されてしまった。
歳は私とさほど変わらなさそうな若い男で、髪は派手な金髪だ。
しかし、それ以上に目を引いたのは、顔じゅうのピアスと、首や腕の大量の入れ墨だった。
耳はもちろん、というか両耳だけでもかなりの数のピアスを付けている。さらには、口、鼻、右眉毛の上にもピアスが光っていた。
そして、何よりも驚いたのは入れ墨のほうだ。首には虎か何かの入れ墨がこちらを睨みつけるように彫られ、捲った袖から覗く腕にも、花やら文字やらの大量の入れ墨が見える。手首より上の部分に関しては、もうほとんど肌色の部分が見えない状態だ。
正直、見た目だけなら凛ちゃんよりも怖い。
私は恐怖心のせいなのか、無意識のうちに凛ちゃんのジャケットの裾を掴んでいた。
「久しぶりー、凛ちゃん。元気だった?」
入れ墨の男は、風貌に似つかわしくないくらい少年のような満面の笑みを見せる。
声も変声期途中の少年のような高めのハスキーな声だった。
「その呼び方止めろって、何度言ったら分かるんだ?」
凛ちゃんは苛立ったように話す。
男は「ごめんごめん」とヘラヘラと笑う。そして、凛ちゃんの後ろに隠れて縮こまっている私に気づくと、「その子がバイトの子?」と尋ねてきた。
「ああ、そうだ」
凛ちゃんがそう言うと、男は少し身を屈めて私に目線を合わせてきた。
「初めましてー、和住真悟って言いますー。よろしくね」
和住さんはニコニコと話す。
「そ、副島幸希です……。よろしくお願いします」
「いやー、助かるよー。半月前までバイトしてた奴がさぁ、薬で捕まっちゃってねぇ。そいつ初犯じゃないから、当分出てこれないだろうからさぁ、困ってたんだよねー」
和住さんはギャハハと笑いながら、とんでもないことをベラベラと喋る。
私は「あはは」と顔を引き攣らせながら無理やり笑った。
この人も薬をやっているんじゃないか?
「そんな緊張しなくても大丈夫だよー。やってもらうことは掃除とレジと受付だから」
屈託のない笑みで明るく接してくれる和住さんを見て、「悪い人ではないのだろうな」と感じた。
しかし、この厳つい見た目と異様な馴れ馴れしさに慣れるのためには、かなり時間が必要そうだ。