毒舌な雨宮君が私にだけなぜか優しい件

差し入れ

高校生の頃、私はしょっちゅう学校で寝ていた。
授業と授業の合間の小休憩。
お昼休み。
そして、放課後。
そして、時には授業中も。
とにかくよく寝ていた。
……眠たかったから。
あまりに寝ていたから、最初は先生に怒られたこともあった。
けれど、事情を知ったら先生は諦めて、それからは見逃してくれていた。
私は貧乏だった。
学校がある日は、夜10時までカフェやドラッグストアでバイト。
ない日は、朝から夜までずっとバイト。
とにかくバイト漬けの毎日。
家に帰ったら遅い日は夜の12時を回ることもあった。
……家に帰ってからも、すぐに寝れなかった。
通っていた高校は私立で、その中で私は特待生。
ある程度学費の補助は出ていたものの、その為に私は成績を維持し続けなけなくて、毎日3時間は自習していた。
あー、後は、起きてきた下の妹の世話もしたりもしていたっけ……。
まあ、そんなこんなで寝不足の私にとって、学校は勉強する場所というよりかは休憩所みたいなものだった。(オイ)
高校1年の秋ぐらいまでは。

★☆★
その日の昼休みも私は眠っていた。

だけど、

コツン

(いたっ)

頭に衝撃が走った。
顔を上げるとそこには瑠奈が居た。
クラスの女子のリーダー的な存在だった子だ。
瑠奈はクスクスと笑いながら、床に落ちた消しゴムを拾うと、1000円札を差し出してきた。

「琴吹さん。アンタ、パン買って来て」
「……え?」
状況がいまいち状況を飲み込めずにいたら、瑠奈は私の机をバンッと叩いて命令口調で言った。
「私の言う事聞こえなかったの? パン買ってきて。私と皆の分で4つ。お釣りであんたも買えばいいでしょ!」
「……何それ。私寝ているの。邪魔しないで」

要するにぱしりって事だけど……。
食欲よりも睡眠欲の方が断然大きかった私は、ぱしられる元気もない。
瑠奈が差し出してきた1000円札を突き返して、また眠ろうとしたけれど、その態度が気に喰わなかったみたい。

はあとわざとらしくため息をついて、皆に聞こえるぐらいの大きな声で、

「琴吹さんさぁ……、そんなんだからクラスで浮くんだよ? 貧乏だがなんだか知らないけれどね、先生は許しても私は許さないよ。ねえ、皆もそう思わない?」

シーン

誰も瑠奈の問いかけに返事はしなかった。
だが、彼女にはそれで満足だったみたい。
当時、私のクラスには(私ほど)気が強い女子が居なかったから、こんな事で瑠奈に反抗して目を付けられるのを恐れていた。

皆、瑠奈と目線が合わさないように目線を下に落としていた。

「ほらね! 皆、琴吹さんが気に要らないって!」
「……」
「ねえ聞いている?」
「……」
「無視すんなって」

段々、言葉を荒げる瑠奈。

――とその時だった。

「さっきから一人でうっせえよ。食事時ぐらい静かにしろよ」

静まり返った教室に、男の声が響いた。

「……は? 今、誰がい……あ、雨宮くん!?」
「……何だよ。文句あんのか?」

まさか非難されるとは夢にも思わなかったかの、瑠奈は声のした方を慌てて顔を向けた。
そして、声の主が雨宮 健人であることを確認すると、急に態度が変わった。

「ご、ごめんね。雨宮君。私そんなつもりじゃ……」
「良いからもう黙れよ」
「う、うん」

私に対する態度とは180度違う。
好きな男子に注意され、顔を真っ赤にして謝る瑠奈。
そして私に対しても、

「……ごめんね。琴吹さん。ちょっと怒鳴っちゃって。でも、私本当に琴吹さんの事心配してあんな事言っちゃったの。……何か困った事があったら、いつでも私に相談してね」
「……あっそ」

謝ってきたが、その目つきは明らかに「アンタのせいで、雨宮君に嫌われたらどうすんの!!」という逆切れの目だった。

そして私はまた眠りにつこうとしたけれど、何を思ったのか雨宮が私の方に近寄ってきた。

てっきり、私にも文句を言ってくるのかと思ったけれど、

雨宮は右手に持っていた缶コーヒーをコトンと無言で机に置いた。

そして、無表情で言った。


「……琴吹。これやるよ」
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