君に、振り向いてほしいから
翌朝、早くに目を覚ました私は、朝食を食べて、凪先輩が来るのを待っていた。

昨日と同じように、ノックの音が響く。

おおきなかばんを持って入ってきた凪先輩は、私を車椅子に乗せて病院の外に出た。

久しぶりに感じる外の空気に、思わず笑みがこぼれる。

そんな私を見て、凪先輩も優しく微笑んでくれた。

「その笑顔を見れただけでも、外に出た甲斐があったよ。最近、君は元気がなかったからね」

「えっ」

どうして分かったの?

うまく隠せてたはず……。

凪先輩は苦笑すると、私の顔をそっと覗き込んだ。

「僕が気づいてないと思った?」

正直、凪先輩にはばれると思った。

満珠駅に行き、電車に乗る。

車内でも、いろんな人がこっちを見ているのが分かった。

凪先輩が私を座席に座らせ、車椅子を折りたたんだ。

そのまま私の横に座り、そっと微笑んだ。

「もう大丈夫だよ、ごめんね、怖かったね」

その笑顔に、泣きたくなる。

凪先輩は優しすぎるよ……。

きっと、もてるんだろうな……。

私が死んでも、大きくなったら結婚して、子どもをつくるんだろうな。

電車を降り、琵琶湖に向かう。

しばらくしてから見えた琵琶湖は、想像以上に大きかった。

風が吹く。

凪先輩の髪がふわりと風になびいた。
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