センチメートル
4 カフェ
カフェに入ると、慎吾がすぐに目に入った。
いつもの、窓際で端っこの二人用の席。
慎吾は私に気づいて、睨んできた。
「おい、紗央。おせぇ」
「ごめん、広瀬くんと話てたら遅くなった」
「桔平と?」
「うん。広瀬くんってば親切なんだから!」
「何があったかは知らねえけど、お前今更かよ」
「広瀬くんが優しいのは前から知ってますよー」
いつもかわす、何気ない会話。まるで友達みたいな内容。だけど楽しい。
これだけで私は満足なんだ。
「紗央。いつものでいいだろ」
「うん、ありがとう」
慎吾は近くにいた店員を呼んでカフェオレとカシスソーダを注文した。
いつものパターン。
飲み物を飲みながら談笑する。これが私たちのデート。
私が来るまでいつも飲み物をたのまずに待っていてくれる。
こういう小さな優しさも、わたしはすき。
「うわ、またメールきた」
「だれ?」
「まえ告白してきたやつ」
「相変わらずモテモテなことで…」
「嬉しくねぇし」
慎吾は取り巻きの女の子にへらへらしているけど、じつは猫をかぶっている。本当は取り巻きのキャーキャー言っている女の子がきらいらしい。
私をOKしたのは、キャーキャーうるさくなさそうだし、気が合いそうだから、と言っていた。
そのときは嬉しかったけど本当の理由を知ったいまは、つらいだけ。
「はあ、本当しつけえ…」
「慎吾がにこにこするからだよ。」
「印象悪いのは避けてぇし」
「あーそう」
心に嫌われたりしたらイヤだもんね。
「それにしても、本当に紗央はいいよ」
「え…」
「話しやすいし、束縛しないし、話も合うしな」
にこ、と笑う慎吾。
どきどきとうるさい自分の心臓。顔があつくなる。
そんなこといっちゃって
心が目当てのくせに…
そう思うのに
私の心臓は止まらない。
カシスソーダを一口飲んで平生をまとった。
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