ハーフ☆ブラザー 突然出てきた弟に溺愛されてます!
聞き慣れたやわらかな声音が、頭上から落ちてくる。
いつもと違うアルコール臭を含んだ息遣いと合わさって、私に忘れていたはずの記憶を呼び起こさせた───昔、付き合っていた、男を。

『そっちは、俺と結婚する気なんて、ないわけ?』

記憶の中にしか残っていないはずの声が、響く。
……なんで、今頃。こんなタイミングで。

「あの日……僕達が姉弟じゃないって解った日、僕は()いたよね? ずっと一生、側にいてくれる? って。
まいさんは、言葉にして返してはくれなかったけど……僕は、まいさんが僕の気持ちに応えてくれるんだって、思ってた。それは、僕の勘違いだった?」

重ねられた大地の問いかけに、我に返る。
私は大地を振り返った───そこに大地がいることを、確認するために。

顔立ちも背の高さも、私を見つめる眼差しも、何もかもが違うのに……私はわけもなく、泣きたくなった。
───嫌だ。
二度と、同じ思いなんか、したくないのに。

「勘違いなわけ、ないじゃない。……私の全部で、あんたの望みに応えるって、言ったんだから」

涙声になった私に、大地は目を見開いた。
ごめんね、と言う大地の透明な声が頬に触れ、次いで唇が触れた。

「───きちんと言葉にしないでいたのは、僕のほうなのに。意地悪な訊き方、しちゃったね」

大地は私の左手をとり、私をじっと見つめた。
痛いほど真っすぐな瞳の奥に、強い意志が宿っていて、私の不安定な心を捕えた。
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