ハーフ☆ブラザー 突然出てきた弟に溺愛されてます!

2.望むもの全部、あげる

*****


いつものように、仕事場と同じ敷地内のファミレスで食事して。

いつものように、従業員駐車場へと、大地と二人、歩いて行く。

「……ねぇ、まいさん。たまには少し、歩かない?」

自転車道路から駐車場へは、三段ある石の階段を降りて行くようになっていた。

大地の指は、駐車場には向かわずに、まっすぐに続く、自転車道路を指していた。

「歩くの?」

眉をひそめる。

自転車道路は、右手にある駐車場が切れると、両脇を竹林と河川に挟まれていた。
等間隔にある街灯以外は何もない、薄暗い夜道だった。
絶対に一人では、必要もないのに歩きたくなんかならないところだ。

「散歩だよ。僕と一緒でも、ちょっと怖い?」

私の心中を見透かしたように、大地はいたずらっぽく笑った。悔しまぎれに言い返す。

「ある意味、あんたと一緒ってのが怖いけど……まぁいいわよ、付き合うわ」
「やった! 手、つないでもいい?」
「……もうつないでるじゃん」

私の返事を待たず、言葉と同時にさらわれた片手に、ムッと大地を見上げる。

「そんな不機嫌にならないで。可愛い顔が、台無しだよ?」

大地に手を引かれ、よろめくように自転車道路を歩き始めた。

ふふっと、楽しそうに大地が笑う。

「僕、誰かと手をつないで歩くなんて、初めてだ」

お母さんとは、つながなかったの? と、言いかけて、やめる。
……つながなかったから《初めて》なんだ。

せせらぎの音と、鈴虫の鳴き声。
重なるように、遠くで車が行き交う音がする。
< 86 / 115 >

この作品をシェア

pagetop