ハーフ☆ブラザー 突然出てきた弟に溺愛されてます!
大地の言葉が、身体をすり抜けていくようだった。

胸に穴があく、と、よく聞くけれど。
私の場合、さっき満たしたばかりの胃袋が、体の中から失われてしまった気がした。

───この空虚さは、なんだろう。
姉弟だと確信していたのに、否定されたことに対する、とまどい? それとも……。

「ねぇ、まいさん。嬉しい? ねぇ、嬉しいって、言ってよ。でないと、僕───」

言いかけた大地の頬を、ひとすじの涙が伝った。

悲しい過去を告白する時ですら見せなかった大地が見せた、初めての涙だった。

ぬぐいもせずに、大地はふふっと笑った。

「僕は、ちっとも嬉しくなんかない。
まいさんと姉弟だと思って育って……それでも、まいさんが好きで。
倫理も社会通念も踏みはずして───母親と同じように、自分の欲望に逆らえなくて。
あなたの心も、身体も、望んだのに。

手に入れても……いつか失う日がくることが解ってしまって……たとえ社会的に許された関係になったとしても、全然、喜べないよ。

───僕はまいさんと、姉弟でいたかった。
姉弟なら……いつかあなたが僕を必要としなくなっても、側に居続けることができる。

でも、他人なら、それで終わりだ。側になんて、いられない」

言いきって、大地は両手で顔を覆った。泣きくずれるのかと、思った。

けれども大地は、わずかの間だけ覆った手をおもむろに下げて、私をじっと見つめた。
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