一途な後輩に、秘密に溺愛されてます。

帰ってきたら、マイクを差し出されたので、歌う。


その場の空気に流されるまま。


……なんか、違うな。


こんなの、私じゃないや。



もう帰ろう、と思ったところで丁度お開きになり、カラオケからぞろぞろと大勢の男女が出る。


中には手を繋いで、幸せそうなカップルもいた。



「……いいなあ」



どうしたら、私は出会えるんだろう。


自分が自分でいられる人に。



「ーー恋奈ちゃん!」



くるっと駅の方向へ踵を向けた時に、不意に手首が掴まれた。


手から徐々に姿を追うと、カラオケの時ずっと隣に座っていた人だった。



「……えーと、なんですか?」


「俺と連絡先交換しない?」


「……え」



ぱっと、目を彼に合わせると、にこりと笑顔がひとつ返ってきた。


……正直、この人は少し苦手だ。


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