100日婚約なのに、俺様パイロットに容赦なく激愛されています
「わっ、すみません」
元々低い鼻がこれ以上低くなっては困るので、つまんで引っぱりながら浅見の横に並ぶ。
なにが始まるのだろうと、体格のいい数人の陰から前方を覗き見ると、作業着以外の服装の人が見えた。
濃紺のスラックスとネクタイ、半袖のワイシャツ姿で、肩章は金色の三本線。副操縦士だ。
高身長でスタイルがよく、年齢は三十代半ばと予想したが、ここからだと横顔しか見えない。
(誰?)
自社の副操縦士たちを頭の中に並べたけれど、似た人はいない。
パイロットがなんの用で早朝の運航整備部にいるのかもわからずにいたら、部長が咳払いをして話しだす。
「昨日から羽田に戻られた五十嵐(いがらし)さんより挨拶がある」
続いて響くのは、少し低く爽やかで聞き心地のいい声だ。
「忙しい時間にすみません。五十嵐です。スカイエアライズのFOとして四年ぶりに羽田発着便を担当します。どうぞよろしくお願いします」
副操縦士を〝FO〟や〝コーパイ〟と呼ぶ。
「一度辞めて戻ってきたという意味? そんなことできるんだ」
退職者を再雇用する会社は航空業界に限らず少ないのではないだろうか。
独り言として呟いた疑問に、浅見がヒソヒソ声で答えてくれる。
「うちの社はアメリカの航空会社とパイロットの育成で協定を結んでいるんだ。期間限定の交換ってやつ。俺も詳しくは知らないけど将来有望なコーパイ限定らしい」
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