100日婚約なのに、俺様パイロットに容赦なく激愛されています
多くの経験を積ませて成長させようという狙いなのか、そのような制度があるのを初めて知った。
四年前に異動になったということは一年ほど彼と一緒に羽田で勤務していた計算になるが、和葉は当時一年目の新人で直接パイロットと関わることはなく、顔も名前も記憶にない。
(五十嵐さんの乗る便を担当することもあるだろうから、名前だけは憶えておこう)
一礼して挨拶を終えた彼が誰かを探すようにゆっくりとこちらを向いたので、正面から顔を見ることができた。
高い鼻梁と形のいい唇。涼しげな切れ長の二重に、きりっとした眉の俳優顔負けの美形だ。
黒い髪はビジネス風に整えられた七三分けだが、仕事ができそうな印象を与えるだけで、おじさんくささはない。
張りのある前髪が斜めに額にかかっており、誠実で人当たりがよさそうな微笑を口元に浮かべている。
(あれ、どこかで見たような?)
記憶の中のぼんやりとした人影が彼と重なった途端、クリッと丸い和葉の目がさらにまん丸に見開かれた。
「あっ!」
初対面ではないと気づくと同時に声をあげてしまい、五十嵐に視線を向けられた。
好青年風の笑みが一瞬だけ崩れ、ニッと口角を上げたあとにすぐ元の顔つきになる。
「金城、どうした?」
整備士たちの注目を浴びる中で部長に声をかけられ、焦って首を横に振った。
「い、いえ、なんでもありません」
作業用の手袋をはめた手で顔を隠すも、時すでに遅し。
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