100日婚約なのに、俺様パイロットに容赦なく激愛されています
「それでですね、引っ越そうにも金欠で、五十嵐さんの家に婚約者として住まわせてもらうことになりました。通勤の車を貸してくれたのも五十嵐さんです」
浅見がうどんの汁を噴き出した。
慌ててテーブルを拭き、近くで食事中の人に謝った浅見が、和葉の方に振り向いて目をむいた。
「五十嵐さんと婚約して同棲!?」
「しーっ! 浅見さん、もっと声を落としてください」
噂を広めるのは、やり方を五十嵐と相談してからの方がいい。
焦って周囲を見回したが、誰とも視線が合わなかったので聞かれていないとホッとした。
「婚約者ですけど結婚はしません。百日後に婚約解消して、ひとり暮らしに戻ります」
「ちょっと待ってくれ。金城の話に理解が追いつかない。わかるように説明して」
引っ越し費用はないが無償の援助は受けたくないという和葉に、五十嵐が女避けのための婚約者になるという契約を提案した。
その話をすると浅見も少しは納得できたようだが、温厚な性格の彼にしては珍しく怒ったように顔をしかめている。
「五十嵐さんを見損なった」
「どうしてですか? 私は逆に、今回の件で印象がいい方に変わりましたけど」
五十嵐が助けてくれなかったら、今朝も湯崎に怯えていたことだろう。
意地悪なだけでなく面倒見がいい一面もあるのだと捉え方が変わった。
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