100日婚約なのに、俺様パイロットに容赦なく激愛されています
座卓に分厚い教科書や過去問を広げ、次なる資格取得のための勉強を始める。
目指すはライン確認責任者の資格で、いつかフライトログブックに自分の名前をサインしたいと夢見ていた。
集中して勉強していると寂しさも時間も忘れ、玄関の物音でハッと時計を見た。
時刻は二十二時半になるところだ。
(帰ってきた)
すぐにペンを置くと、少し緊張しながら廊下に顔を出す。
「五十嵐さん、おかえりなさい」
制服姿の彼がキャスターつきの黒いフライトバッグを寝室前に置いてこちらに来た。
「ただいま」
同棲しているという実感が湧き、鼓動が高まる。
自宅で制服姿というミスマッチが新鮮に見え、気怠げな表情には大人の色気を感じた。
(このくらいでドキドキしてどうするのよ。普通に話さないと)
「今日は社内スタンバイと言っていましたよね。拘束時間が長いんですね」
「スケジュールの変更を頼まれて飛んだんだ。一時間半前に仙台から戻ったばかりだ」
乗務報告やブリーフィング後、着替えもせずすぐに空港を出たようだ。
急いだ理由はなんだろうと思ったが、まずは彼の空腹を心配した。
「夕食、食べました?」
「いや、時間がなかった」
「ソーキそば、食べます? 茹でて付属のつゆと具をのせるだけのレトルトですけど、作りますよ」
「ありがとう。食べたいが、その前に話がある。和葉が寝ないうちにと急いで帰宅したんだ」
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